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みどvsかけこ

新装改訂版『尼崎の一番星たち』絶讃発売中!光合成見参!

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みどvsかけこ


 彼女の得意技の一つに、人の携帯電話を無断でチェックするという技がある。
 彼女の名前は、みど、である。ひかの妹である。
 彼女は、携帯電話から情報を入手しても、携帯電話の主には知らせないし、問い詰めたりしない。ただ主以外には、喋りまくってくれる。
 回り回って、それが主の耳に入っても彼女は決して謝ったりしない。彼女は言う。
「謝るのと怒られるのが何より嫌いなんだ」
と。
この姿勢は基本ブレない。


 そんな、みどに私は軽はずみにも、怒ってしまった過去があるのだが、すぐにお母さんに告げ口され、親族一同から村八分の刑に処されてしまった事がある。
 実際、あれは辛かった、、、。余談であった。


 彼女に聞けば親族間の事や彼女の友人の事は、だいたい分かる。
 唯一の欠点としては、相手が興味を持つと、調子に乗って、話を盛ってしまうところだろう。
 だから、余り役に立つ事は少ないのだが、話としてはおもしろい。


「あのさ、この前ペソのケイタイみてたらさ」
とか、
「みずきが家きてる時にケイタイみてんけどな」
なんて事は会話の中でザラに飛びだしてくるワードである。だが唯一、私とひかの携帯電話は見ないらしい。何故か。興味がないらしいのだ。実にさっぱりしていてよいではないか。
 だが、あなどれぬ。みどの事だ。私の携帯電話のパスワードも、嫁の携帯電話のパスワードも既に把握しているかもしれない。


 そんな、みどの携帯電話が鳴ったのは夏がすぐそこまでやってきていた6月のことだった。
相手は、振り込め詐欺グループのかけ子。手口は今更ながらの、アダルトサイト請求詐欺。
 電話に出たみどに、かけ子がアダルトサイトの請求額を告げた。
 みどがいうには、ちょっと現実ぽく請求額は12万円だったらしい。
 電話に出たみどは応えた。


「アタシ女やし、そんなん見いへんしねっ!」
心外だ、とでも言いたげなキレ気味口調。


「おかしいですね。使用状況を確認致しましても、確かに貴方さまのご携帯番号に間違いないのですが......。失礼ですが、念のため確認し直しますので、お客様のお名前を頂戴してよろしいでしょうか?」


 こんな古典的な事を言われて、名前を言う奴などまずおらんだろう。普通に考えても使用状況が分かっているにもかかわらず、名前がわからないなんて事などありえない。こたえる奴なんて......。


「みど、ですけど! みどっ!」
 いたのであった。
「かしこまりました!もう一度確認し直し、ご連絡入れさせて頂きますねっ!」
 かけ子からすれば、まず名前を聞けただけでも次のステップへと進めたのであろう。
 すぐに折り返しの電話が鳴ったらしいが、さっきの番号とは違うかったらしい。
 でも、みどが携帯電話に出ると、やはり先程のかけ子で、確認し直したが間違いないと言う。
だから、アダルトサイトの代金、12万払えと言うのだ。
 みどは頭にきた。
「これ振り込め詐欺でしょう! 警察に言いますよっ!」
 それを受けて、そのかけ子の返したセリフが、実にセンスがあったらしい。


「かしこまりました。警察でも弁護士さんでも好きなように言って下さい。我々は、裁判しますから。では、法廷でお逢いしましょう」
と言われ、みどは電話を一方的に切られたのである。
 ー法廷でお逢いしましょうーである。
 金を騙しとれなかったかけ子の、せめてもの捨て台詞であるのだけど、なかなか気の利いた言い回しではないか。
 
で、みどはみどで、返す刀で警察ではなく文政に通報したのであった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)