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ひかとみど

新装改訂版『生野が生んだスーパースター文政』発売中!

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ーひかとみどー


 彼は「文政」と呼び捨てにされることを非常に嫌う男である。
 誰とて、呼び捨てにされ気持ちよく感じる者は少ないと思うが、彼の場合はその傾向が異常に強い。


 軽はずみに彼を呼び捨てにしてしまい、何度、大阪の街に血の雨を降らせてきたことか。数えればきりがない。
 そんな彼ではあるのだが、唯一の特例として、「ぶんまさ」と呼び捨てにしても血の雨が降らない者が、私の周囲には2人いる。ひかとみどの姉妹である。


 この2人が文政の事を「ぶんまさ~」と呼び捨てにしても、彼はニコニコしている。


 間違ってはいけないのは、女性に対してすべてそうである、という勘違いをしてはいけない、ということだ。その辺のキャバ嬢が「ぶんまさ~」と親しみを込めて呼んだとしても、それは通らない。
必ずボトルの4、5本は派手な音を上げ、こっぱみじんに割れてしまうことだろう。


 だが、ひかとみどには、何故か特例が発行されており、ボトルも割れなければ眉間にシワも寄せない。察するに、娘ほど年が離れている2人の姉妹を、子供のように思っているのだろう。


 以前こういう出来事があった。


 私が経営していた飲食店にひかが働いていた時の話だ。そこに当時の私より目上の者がやってきた(直ぐに追い越してしまい叔父貴と呼ばれる立場になってしまうのだが、、、)。
 当時の目上の者─ポパイ─は、来店当初からしたたかに酔っていた。
 酔っていなければ、ただのいちびりなだけで悪い奴ではないのだが、酔うとクセが悪い。
ポパイは己のことを棚に上げ、ひかの若さゆえの言葉遣いにネチネチと絡みつき始めたのだ。


 最初は、私も商売イコール、シノギと思い、聞き流していた。
だが、ポパイが私に帰り際にヌカした捨てゼリフが私の頭に火をつけた。


「おいっ!女くらいちゃんと教育しとかんかいっ!」


 ここで「はっ!わかりましたですっ!」と言えればヤクザなどしていない。
即刻、引きずり回しの刑に処すことにしたのだが、執行途中に警察官が登場。本来なら、そこで中断となるところだったが、それも叶わず、居合わせた私の部下たちが警察官をなぎ倒してしまい、大騒動に発展してしまったのだ。


 その最中に、間の悪いことに、みどが居合わせてしまった。
 お姉ちゃんの悪口を言われたのが気に入らなかったのか、はたまた場面をもっと盛り上げようと企んだのかさだかじゃないが、
「ぶんまさ! ひかの悪口ゆわれて沖田が暴れてる!!!」
と、事もあろうに文政を電話で呼び寄せてしまったのである。


 速かった。何処にいたのか知らないが、10分かからずに、金槌を握りしめた文政が鬼の形相で参上。
 助手席には、ステゴロキング、バッテツ。


「誰じゃいコゥラ!ねえ(ひか)の悪口ゆうとんのわ!食うてまうどコラッ!」


「あのね、あのね、兄弟、こいつら全員しばいていいの?」


 最悪である。辺り一面、修羅場と化してしまったのはいうまでもない。逮捕者が出なかったことが奇跡である。
 ようやく事態の収集がついた後で、私は、みどを睨みつけたのだが、逆に彼女に睨み返されてしまった。彼女は彼女で、人に怒られるのが大嫌いなのである。


 翌日、私だけが本部に呼び出され、若頭からコンコンと説教をくらったのであった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)