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ー我が嫁と妹で光合成姉妹ー

新装改訂版『尼崎の一番星たち』絶讃発売中!光合成見参!

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ー我が嫁と妹で光合成姉妹ー



 みどに比べると、まだ、ひかのほうがお姉ちゃんの分、性格が優しい。
 滅多やたらに大魔王文政を呼び起こしてしまうみどとは違い、ちょっとくらいなら自分で処理してしまおうとするクセがある。
 ただ、だからと言って、彼女を侮ってはいけない、ということを私は身をもって知っている。
 それは、常人ではとてもたどり着くことのできない領域の行動力を宿しているからだ。
以前、歩いてどこまでも行ってしまう彼女を見て、私の母が不憫に想い、ちょっと高めの良い自転車を買い与えてしまった。そこから、彼女は本領を発揮し始めていった。


 片道、3時間の道程なら、帰りの時間など一切考えず、携帯ナビ片手に出かけていってしまう。
 何度、クソ離れた場所まで彼女を迎えにいかされたことか。
 常に、全力疾走でチャリンコを漕いで颯爽と駆け抜けているひかを見て、以前、私の友人が声をかけてしまったことがあった。


「ひかちゃん!そんな急いでどこいくの!また沖田さんに怒られるで~!」
と。
 その友人の声に、彼女は急ブレーキをかけ、チャリンコをギッと停車させたかと思うと、私の友人をキッと睨みつけ、こう叫びかえしてきたという。


「もう!邪魔せんとってや!前のおっちゃんに負けてもうたやろ!」


 聞くところによると、まったく知らない原チャリのおっさんとレースしていたというのだ。
 もちろん、対戦相手のはずのおっさんは、そんなこと露とも知らない。
 もしかしたら、バックミラーを見て、やたらと全力で着いてくるチャリンコがいるということには気付いていたかもしれないが、まさかおっさん自身がレースに参戦させられているとは、夢にも思っていなかったはずである。


 そんなひかが私に、こんな恐ろしいことを言い出したのは、ちょうど去年の今頃ではなかったかと思う。


「なあなあなあな~っ沖ちゃん、車の免許取らせてや!なあなあなあな~っ。ひかが車の免許持っとたら、沖ちゃんをどこにでも迎えにいってあげられるし、文政が刑務所から出てきた時も、ひかが運転して迎えに行ってやれるやん!」


 心配するな。私自身、車の免許を持っているし、頼めば運転してくれる人間だっている。現状全く不自由していない。
 母がだ、チャリンコを与えてしまったおかげで、恐ろしいほどテリトリーを広げてしまったのだぞ。車の免許など与えてみろ。日本全国が彼女の活動範囲になってしまう可能性があるではないか。私は強く拒んだ。


「ケチケチケチケチケチケチケチケチ‥‥‥」
 エンドレスに続く、彼女の言葉の暴力を耐え忍んだ。


 次第にケチの言葉がムシへと変わり、諦めてくれたか、と思っていた矢先、彼女は勝手に教習所の入校手続きを済ませてしまった。


「沖ちゃん! 30万払ろて!」


 並々ならぬこの行動力。最終的には、私の母からも「そんな免許取りたいゆうてんのやったら、取らしたりぃな」と口添えされ、結局、彼女を教習所に通わすことになってしまった。


 大阪拘置所で拘禁中だった文政に、面会でこのことを伝えると、あの文政ですら「兄弟、それホンマ大丈夫か?」と心配していたほどだ。
 この時、私は初めて文政にも、心配するという機能が体内に宿していたことを知ったのだった。
 
そして、無事、免許取得。翌日、家に帰ると私の車がない。しまった!と思い、ひかの携帯電話を鳴らした。


「お前、何してんねん!」


「沖ちゃん~! 今、運転中やから、後でかけるわ~!」


 この時、彼女は単身、高速道路を利用し、六甲山地の奥深く。三田(さんだ)の山奥へと出かけていたのだった。
 
ひかが帰ってきたのは、それから4時間後。満タンだったガソリンは、きっちりEベッタベッタであったのだった。
彼女は、恐ろしいことに現在マイカーを所持している。


「お前どこ居とねん!」


「沖ちゃん!沖縄やで〜っ!」


なんて、ならないことを祈るばかりである。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)