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バジリスクみど

新装改訂版『尼崎の一番星たち』絶讃発売中!光合成見参!ー我が妹よー

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バジリスクみど


彼は博打打ちである。
どんな大事な金であろうと、人様からの預かりものであろうとも、なんの躊躇も見せずに博打に大金を張る事が出来てしまう。そう文政は正真正銘の博打打ちなのである。
 
だが、彼女もまた生粋のギャンブラーと言えるだろう。文政から比べると、えらく小口となってしまうのだが、彼女とてギャンブラーと呼ばれても差し支えない。ていうかスロットが実生活の中に浸透してしまっている。
名前はみど。そう光合成姉妹の妹のほうでもあり、我が妹でもある。
もし仮りにスロットと入籍する事が出来るとするならば、彼女はバジリスクみどとなるかもしれない。


「ひかが電話に出やんから、切れてスロット行って、2万3千円負けましたわ」


なんて電話をみどはお姉ちゃんのひかにしょっ中かけている。無論ひかが電話に出ようが出まいが、一切関係はなく、スロットへ行くのだが。


「もう、みどあかんて言うてるやん。スロットやめやっ」


流石はひか。そこはお姉ちゃんである。毎日、毎日、せっせとパチンコ屋に通う妹を案じて、みどを諭してみせるのだ。
そう言ってひかは、電話を切ると再びどこかに電話をかけ始める。


「ママ、みどまたスロット行って2万3千円負けましたわとか言うてるで! もう病気! 病気! 病気!」


と嬉しそうにお母さんに電話を入れるのだ。みどの事を案じているのではなかった。どちらかと言うと負けた事を喜んでいるようにしか見えない。
お母さんへの告げ口は、決してみどだけの得意技ではなかった。


そんなみどだが、負けっぱなしという訳ではない。時折、勝って帰ってくる事もあるのだ。しかもスロットの額にしては結構、破格の勝ちを手にして帰ってくるなんて事もあったりする。

あんな沖田!聞いて聞いて!今日20万出したで!」


大勝ちすると必ず私の携帯電話が鳴り、自慢話が始まった。


負けた時は姉で、勝った時は兄と、みどの中で設定されているのであろう。


「そんな勝ったんやったら、靴ぐらい買ってくれや」
と言うのだが、たいがい、私の話を聞いていない。
始めからあの台は良い気がしていただの、みどは引きが強いだのと延々、気がすむまでレクチャーされた挙句、電話を切られてしまうのだ。
要するに、ひかなら話しを気の済むまで聞いてくれないから、私にターゲットを絞っているだけなのである。


「結局、全ては引きやねん。引きが全て。沖田は辞めときな!ここ一番の引きがないもんっ」


大きなお世話である。て言うか、ーあの台がどうのこうの言うとるやないか。引きが全てちゃうやんけー、と思うのだが、長くかので決して口には出さない。


「気いつけていけよっ」


「オッケー!」と言いながら、今日も愛すべきバジリスクに挑む、みどなのであった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)