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引退されても親分は親分

絶賛発売中!『尼崎の一番星たち』久しぶりの番外編!

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引退されても親分は親分


毎年届けて頂く自家製のくぎ煮が、今年も我が家へと届けられた。くぎ煮にが届くと私はいつも、もう春がそこまでやってきていることを実感するのである。
届けられるくぎ煮には、ヤクザ渡世から引退された二代目大平組中村天地朗親分へのものもあり、毎年届いたくぎ煮を私が持参し、届けさせて頂くのを楽しみにしてくださっている。
今年も大変喜んで下さり、温かなお言葉を沢山頂戴した。

いつも思うことがある。親分がもし引退されていなかったら、私もまだヤクザをやっていただろうと。

組長室に呼ばれ親分から引退することを告げられ「このご時世や。お前らの辛い顔もう見てられへんからな、引退することに決めたんや」と言われた言葉。
親分がそう口にするほど、ヤクザを心底ひえあがらせた暴力団排除条例の施行は、猛威を振るうほどの席巻ぶりであった。

若い衆の将来を案じ、親分は古希の節目に50年以上生きてきた極道人生に幕を下された。
今こうして私がカタギとなり、曲がりなりにも筆で食べていけているのは親分のお陰なのである。

「がんばれよ!何かあったらすぐ連絡してこいよ!」

親分が上機嫌で言って下さる言葉を聞くと、いつも私は私なりに誰が見ていなくとも頑張れてる、頑張れてるからこそ、親分は温かみのある言葉を私にかけてくださるのだ、と思えるのであった。


くぎ煮を届けてからは私の地元、塚口に行き、直の後輩ユウキがやっている焼き肉店『じゅん亭』へと向かった。
運転は久しぶりのロキである。同行者は友人のすぎさん。それから出張からこっちに帰ってきてるダイとソラの双子の兄弟。そして私の5人でじゅん亭の暖簾をくぐったのである。

座敷に座り、しばらくすると小学校1年からの同級生で、一番古い幼馴染ヒデキに電話をかけた。
塚口に来たので、一緒に夕食でもとおもったのである。
電話に出たヒデキに私は何をしているか尋ねた。

『今、じゅん亭におんねん』

なんと、ちょうどヒデキも「じゅん亭」に来ており、得意先を接待中なのであった。
ヒデキはユウキの実兄となり、去年10月に尼崎では誰もが知っている会社の社長に就任したばかりであった。
「尼崎の一番星たち」も私たちが中学生の頃から通っていた書店まで行って、まとめて買ってくれていた。

じゅん亭の経営者でヒデキの弟のユウキは、私の3つ下なのだが、私らの世代で消滅していた白龍会という暴走族を復活させ、年下の世代ではカリスマ的存在になった後輩である。

「もう先輩〜暴走族の話しはやめてくださいよ〜」
とユウキはいつも笑うが、確かにである。40を過ぎて暴走族もあるまい。
適当にロキに注文させながら、私たちは肉を食べ始めた。

すぎさんとの付き合いも、気がつくと随分と長くなっていた。ヤクザ時代からずっと応援してくれていて、今でも私の信頼している友人の一人である。私がカタギになってからは、なかなかの強者であるロキを預かってロキの強者ぶりに悪戦苦闘しながらも、しっかり面倒をみてくれている。

「オレはロキが沖田さんに怒られてるのを肴にしながら、ずっと酒のんできたからな〜」
と笑って話すのが口ぐせなのだが、いつの間にかすっかりロキを怒るようなことがなくなった。
ロキがしっかりしてきたからではない。ロキは変わらずロキのままである。ただロキをどやしつけたりする時間がなくなったのだ。それにロキは、ヤクザこそやらせなかったが、本家の掃除や本家の公用の際には、いつも裏方として活躍しており、運転手がいないときなどは、ロキがハンドルを握っていたこともあった。言うならば、ロキもロキなりに私と苦楽を共にしてきた弟なのである。
それを思うと、ロキを怒るようなことはなくなっていった。

ダイとソラは、今売り出し中の若い子で、若い世代では有名な双子である。

「ダイとソラの世代やったら、2人が一番ケンカ強いんかっ?」
と私が聞いても、気持ち良いくらいなんの戸惑いを見せることなく「はいっ!」と声を揃えてこたえてみせる。
それもそのはずである。2人はシュートボクシングをやっており、タバコも吸わなければ酒も飲まない。ケンカもするが、仕事も一生懸命頑張っているのだ。
私の若き頃と比べると、軽くめまいを覚えるくらいしっかりしている。
そんな子たちが誕生日ケーキを持ってきて「誕生日おめでとうございますっ!」となついてくれば、誰だって可愛がるだろうし、困ったときには助けてやろうと思うのが人情だろう。


「先輩、今日はよく呑まれましたね」

見送りに出てきてくれたユウキが、ニコニコしながら口にした。
確かにユウキの言う通り、いつもよりよく飲んだ。それだけうまい酒だったのだろう。

心地よく酔っ払いながら我が地元、塚口を私は後にしたのであった。

●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)