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『死に体』序章 第1話

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 今宵降臨!

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■ 『死に体』序章 第1話


人生を終わらせる奴がいる。
自分勝手に終わらせる奴がいる。
若くして勝手に終わらせる奴がいる。
オレもそんなバカな奴の一人だった。


序章(一)


終わった。終わってしまった。人生という道を彷徨っていると、取り返しのつかない失敗やどうしようもし難い境地に立たされてしまった時、人はー終わったーと、諦めてしまう事がある。
オレ自身、バカと言えばそれまでだが、不出来と言われればもっともだが、幼年期から何度このー終わったーと言う経験を積むはめになってしまってきた事か。
遠くは早くも幼稚園児にして、そう痛感させられてしまった苦い記憶がある。
あれは確か、、、。



確かあれは、母の財布から万札一枚をくすね、近所の駄菓子屋へと出かけた日の事だ。ある意味この時点で既に終わりかけている気もしないでもないのだが、、、。
その日に限って、いつもその駄菓子屋にたむろしているはずの、たかつぐくんやこうたくんがいなかった。
せっかく母からくすねた一万円札で万年金欠の彼らに派手な大判振る舞いをしてやろうと思っていたのに、居ないのであれば致し方あるまい。彼らとて同じ幼稚園児とは言え、所用で間の悪い日だってあるであろう。
仕方ないので、オレは一人でくすねた一万円で盛大に大人買いする事にしたのであった。


取り敢えず幼稚園児だった「ボク」のオレは手当たり次第、お菓子を見繕い、爺さんと婆様が経営しているお陰で、近所のクソガキ共から勝手に「ジジババ」の愛称で親しまれている店内で見繕った駄菓子を「ジジババ」のババの方に差し出し、くすねた一万円札を手渡したのだった。
今ならば、なんら問題視される事なく「毎度あり」で事は順調に進んでいたはずである。逆に寂れ切った駄菓子屋で、スッと一万を切るオレに「有難や有難や」と、しわくちゃの手を擦り合わせ、べんちゃらの一言でも言われていた事であろう。
だがババは違ったのである。理不尽とはこう言う事を言うのではなかろうか。


万札を切る太い客だと言うのにだ。ババはしわくちゃの表情をキッと尖らせたかと思うと、客である筈のオレを咎めるという強行にうって出てきたのである。
ババのセリフまでは明確に覚えてはいないが、


「なんでお前みたいな、どチビがそんな大金を持っておるのだ!」


といった趣旨の言葉を頭ごなしに問い詰めてきたかと思うと、怒鳴り出した挙句、商品すら売ってもらえなかったのだ。
やり場のない怒りは最高潮にまで達したのであるが、悲しいかな。幼稚園児だったオレにババと議論する程の話術は備わっていない。


「だって、お父さんにこれでお菓子を買ってから、タバコを買ってきてちょうだいって言われてもん!」


と鼻息荒く反撃できるようになったのは、小学校に入学してしばらくたってからの事だ。
言いようのない憤りを小さな胸に膨らませながら、大人しく退散することにしたのであった。


事が起これば、母にチンコロするのが必殺技の「ボク」であったが、流石にこの時ばかりは必殺技を駆使する訳にいかない。
苦渋の末、仕方なしにくすねた一万円札を母に返す事にしたのであった。


「お母さん、うんとな、ジジババの自動販売機の横の溝に一万円札が落ちとってん!」
意図的にくしゃくしゃに丸めた一万円札を母に差し出す「ぼく」なのであった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)