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■ 『死に体』序章 第2話

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第2話

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■ 『死に体』序章 第2話

「なぁなぁなぁ、ゲームウオッチ買っていい?なぁなぁなぁ、お釣りはお母さんにあげるから、いいやろ?なぁなぁなぁー」


一万円札を拾ったことを装いゲームウオッチを搾取し、返す刀の釣り銭で母に恩まで売ろうと目論んだのである。
恐れ入った「ボク」であるけれど、ことが発覚するのに全く時間はかからなかった。


せめてこの時、5つではなく15歳くらいならば平然とした顔で、母の詰問にもしらばっくれることができたであろう。
15歳とまでいかずとも、10歳だったとしても母の詰問に果敢に挑んで見せたと思う。
しかし、この時の「ボク」は、いかんせん5歳だ。
「ピエーン」と泣く武器しか装備させていない。
何故か「ボク」は、台所で母に素っ裸にされると文字通り身ぐるみを剥がされて、家の外へと放置されてしまったのだ。


「う〜えんっ!あけてやっ!あけてって!頭が痛いっ!頭が痛いっ!!あったっまぁっっっ!!!」


無論、頭痛は嘘である。
「あけてって!お母さんってぇ!うえ〜んっ!うええ〜んっ!!ゲームウオッチはっ!ゲームウオッチは買ってくれるのっ!」


此の期に及んでゲームウオッチをねだる「ボク」の凄まじいまでの執念。
その執念に対して、無惨にもピシャリと閉められた玄関の中から、母は高らとこう宣言したのだ。


「おもちゃなんて一生ダメッ!」


「ボク」は思わず泣き声を呑み込んだ。
「ボク」にとっておもちゃは全てだった。「ボク」はおもちゃにトキメキながら生きていた、と言っても過言ではない。
そのおもちゃをだ。母は二度と買ってくれないと言うのである。
ウルトラマンも仮面ライダーも二度と買わない気でいるらしい。


この時、確かに「ボク」はこう思った。
ー終わった、、、終わってしまった、、、終わってしまったではあ〜りませんかっ、、、ーと。
もう生きる望みは無くなってしまった、、、なんて言葉は、まだボキャブラリーの中になかったけれど、確かに地球が滅んでしまったような衝撃を受け、「ボク」の人生が終わりを告げたと感じたのは間違いない。
母の言葉には、それくらいの破壊力があった。無駄に全裸の「ボク」は、それくらいのダメージを受けた。
ダメージを受け打ちのめされている所に、ピシャリと閉められていた玄関の扉が開け放たれて、母が姿を現したのだ。


「あんた、まだ幼稚園児やねんで。中学生がお金とるんやったらまだ分かるけど、そんなチビの時からお母さんのお金なんか盗ってどうするの!
何がゲームウオッチやの。あんたホンマにアホと違うか!今のウチからそんなん覚えていったら大人になってホンマに困るで。そん時になって、泣いてお母さんに言うてきても、お母さんホンマ知らんからな!」


怒鳴りつける母の瞼には、いつしか涙が浮んでいて小さな胸が痛いくらいに締め付けられたのだった。


これで少しは何かを悟る事が出来ていれば、その後の人生も変わっていただろうが、バカだった分、無知だった分、しょっ中、アホなことをしでかしては、ー終わった、、、終わってしまった、、、ーと思っていたように思う。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)