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第2章 追憶 第12話

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第12話

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■第2章 追憶 第12話

(六)

「なんでヘンケイ穿いてったらあかんねん。無理やっちゅうねん!」
「髪も黒に染め直さな、文化祭出させへんやて⁈」
「オレのパンチなんか、坊主にせえゆいよったぞ!」
 文化祭の前日。
 オレをはじめ、将来その中から「本職」へと進む4人を含めたバカヤロウ8人は、生徒相談室に呼び出され、校内指定の制服と、校則にのっとった髪型でなければ文化祭の舞台に上げてやらんと教師たちから告げられたのだった。
 普段は、教師達からとうの昔に見捨てられていたおかげで口酸っぱく言われることもなかったが、PTAや来賓が来やがると教師達は体裁を気にして、いつもこうやってうんざりするようなことを言ってきやがる。
「別に頼まれても出たるかっゆうねんなっ」
 後年、兄弟分としてずっと付き合いが続くことになる龍ちゃんの意見が大半で、誰1人言われた通りにしようとする者はいなかった。
オレにしてもそうだった。
 放課後になって、クラスの女子から、
「なあ伊丹、最後やねんから、みんな一緒に揃って出ようやっ」
 と諭されたりしたけれど、オレは頑なに拒否し続けた。
 オレに関しては小姑並みに口うるさいみどだったけれど、不思議とそのことに関してはなにも言ってこず、淡々としているふうに見えた。
 最後の練習は、本番を想定して体育館で行われた。
「1組にだけには絶対、絶対負けられんけんからなっ!」
と、学年主任率いる1組を猛烈に意識したバタやんが、録音用のラジカセ持参で臨むという張り切りぶりだった。
「コレ、もう入ってんの? イエーッイーッ!」
 じゃスイッチを押すぞ、とバタヤンがラジカセの録音ボタンを押した瞬間に、バカがバカなことを言ったりした。どこにでも、こういうおっちょこちょいのバカが必ずいるもんだ。
「もお~っ! 伊丹っ!しゃべったらいかんやろっ!」
 オレでした、、、。
ピアノが指揮者の合図にあわせて奏でられ、3年6組の歌声がデッキの中に吸い込まれていった。


(七)
 翌日の教室の中からは、文化祭の注意事項を説明するバタヤンの張り切った声が、廊下にまで漏れていた。オレは、モジモジしながら、次第にオノレの早まった行動を後悔し始めていた。
 オレが廊下でモジモジしているうちにバタヤンの話は終わっていたらしく、クラスメイトたちが、体育館へと移動するために一斉に廊下へと飛び出してきた。
 一番最初に飛び出してきたみどはオレを認めると、早速、遅刻したことをなじろうと息巻きかけたが、いつもと違うオレの姿に気がついて、可愛い顔を驚かせた。次々に飛び出してきたクラスメイト達も、オレを見ると、みどと同じ顔を作った。
「どしたんっ!? 伊丹っ」
 誰が言った言葉か覚えていないけれど、オレは照れくさくて、金パツから黒色に染め直した髪の毛を掻きながら、
「決めるときは、いつでも決める男やねん。オレって奴わっ、、、」
 と格好つけて恥ずかしさを誤魔化した。
 髪をストレートにして、色を黒に染め、ちんちくりんの学生服を着て来ただけでこんなにも喜ばれては、なんだか申し訳ないと気が引けてしまうほど、みんなが騒ぎ立ててくれた。その中でただ1人、淋しそうというか半ベソをかきかけている者がいた。
 担任のバタヤンだった。
 この頃から、疑心暗鬼の才をいかんなく発揮させていたオレは、ドナドナのようなバタヤンの顔をこう読んだ。
 ─ははん。コヤツはオレの歌唱力に疑問を持っておるのだな。それで、オレが出ぬほうが良い成績を出せるんじゃないか。オレが足を引っ張るんじゃないか、と心配しておるのだな。だから、こんな辛気臭い顔をしておるのだ─と。
 全然違った。
「ちょっと、伊丹、来てくれるか」
「先生、なにも心配するな。この伊丹って男は、決めるときに決めてみせるナイスガイや。先生はなんも心配せんと、涙を流す準備だけしとったらええっ」
 オレのシブいセリフにもバタヤンは、そうかそうか、と言いながらも、ドナドナ顔を崩すことなく、なぜかオレを保健室へと連れて行った。
 保健室には、バタヤンが行事ごとに異様なほどライバル意識をたぎらせる学年主任ことオレ達のグループからは「兄貴」と慕われているサトシの兄貴が、お茶をすすり、丸椅子に腰を落ち着かせていた。
 サトシの兄貴の顔も、オレを見た瞬間に、ドナドナに変わってしまった。
 そのせいだろうか。このオッサンも3年という月日の間に、ずいぶんと白髪を増やし、えらくこじんまりしたようにオレには映った。
 入学したての頃、このオッサンには散々ドツキまわされ、オッサンが「ダメだこりゃ」と諦めてくれるまで、何度頭だって青光りに刈られたことか。野球部の顧問というだけの理由で、卓球部に在籍していたオレを無理やりに野球部へ入れたりもしよった。
 そんなオッサンの面影も消え失せ、茶をすするサトシの兄貴には、哀愁のようなものさえ漂っていた。
「お、おう伊丹、中学生らしい格好になっとるやないかっ、、、」
 驚き方にもどこか無理があった。
 それでも褒められると嬉しいもので、
「まあね。オレはやるときにはやる男やねん」
 と、さっきと同じようなセリフを使って、胸を張った。
「それに比べて、ウチの龍一だけは、、、」
と龍ちゃんの愚痴をだらだら聞かされているところに、違う教師がノックと共に顔を覗かせた。
「来られました、、、」
 その教師の声に頷いたサトシの兄貴は、オレの肩を二度ほど叩き、意味不明な激励を口にした。
 もっとも、この激励の意図するところは、すぐに理解できたのだけれども。
「ええか伊丹。身体には気をつけないかんぞ。ハタ先生も伊丹が戻ってくるのをずっと待ってるからなっ。伊丹はまだまだこれからやねんから、なんぼでもやり直せる。今回のことで投げやりになったり、諦めたりしたらいかんぞっ」
「へっ???」
 キョトンとしていたオレは、その後に保健室に雪崩れ込むように入ってきた、目つきのすこぶる悪いスーツ姿に運動靴の2人組を見て、全てを理解した。
 とんだすっとこどっこい。
 ドナドナは、バタヤンでもサトシの兄貴でもなく、実はオレだった。
 すっかり馴染みとなっていた少年課の刑事2人に拐われるように連行され、校門前につけられていた覆面パトカーに乗せられた。車中、年配の刑事のほうから
「なんやお前、ちょっと見ん間にえらい辛気臭い格好しとるやんけっ。やめとけやめとけ、これからネンショウ行かないかんのにナメられてまうど」
と、どうでもいいような口調で諭された。
だから、普段せんようなことするから、こうなってまうねん、と自分自身に腹が立って仕方なかった。
 なにが決めるときは決める男だ。おかげさまでこのまま、文化祭どころか卒業式にさえ出してもらえなかった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)