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第2章 追憶 第11話

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第11話

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■第2章 追憶 第11話

(五)
文化祭のときだったから11月だろう。今より11月という月が、もっと寒く感じたように思う。
 中学3年生の秋。オレの所属する3年6組のクラスメート達は、約1名を除いて一致団結し、合唱コンクールで優勝するために燃えていた。
 もちろん除かれた1名とは他でもないオレである。
 オレは、ことあるごとに女子の中心人物である、関西人でありながらチャキチャキの江戸っ子娘、みどに素行の悪さを咎められていた。
「あんたは、なんでフラフラ、ヨソのクラス行ってアブラ売ってんのよっ!」
と、いわれた通り、ヨソのクラスで劇の出し物の練習を冷やかしているところを、みどに発見されては、叱られていた。
 修学旅行の前日、運動会の練習、壁新聞の製作ーどれも、いつもの日常とは少し違う、その雰囲気が好きだったけれど、その中でも文化祭の準備をして夜遅くまで学校に残っていた時間が、たまらなく好きだった。
 この雰囲気の中にいると、みんなのことまでも、どうしようもなく好きになれた。普段、口をきくことすらない同じクラスメイトのしょぼい生徒とまで距離がグッと縮まり、
「なんでやねん伊丹っ!」
とツッコまれても、笑って許せる空気がそこにあった。


「イエーイッ! 伊丹と坂元に決定っ!」
「な、なにが決定やねん。アホぬかせ! やり直しじゃ、んなもん」
 オレは、はしゃぐクラスメイトに反発した。
 3年6組のベストカップルがオレとみどなら、口で憎まれ口を叩きつつも内心ほくそ笑むところだが、秋とはいえ、夕暮れどきはちょっぴり寒いこの時期。なにが悲しくて放課後に焼却炉までゴミを捨てに行かなければならんというのだ。
「あかんで!伊丹がアミダにしようってゆうたんやんかっ!」 
オレの撤回を求める声を、ピシャリとはねつける女子達。
 アミダにしよう、などと言いよった数分前の自分が恨めしかった。


「ちょっとあんた! ゴミ箱くらいちゃんと持ちいよっ!」
「だって、おもいもん」
「重いって、あんた男やろっ!」
 ところどころで、みどから、きつい叱責を頂戴しながら、しぶしぶ焼却炉へと歩いていった。
「あんたさ、これからどうすんの?」
 オレにしゃべりかけるときのみどは、もうそれがくせになってしまったように、いつも必ず口を尖らせていた。
 このときもオレは、また怒られるのかと思った。
 背なんか、俺の肩くらいしかないし、ゴボウみたいに痩せていて、吹けば飛んでいってしまいそうなみどだったけど、気持ちだけは本当に強かった。
「どうするって、ちゃんとゴミ捨てるやん」
 みどの設問に対して、オレは的外れな解答をしてしまったらしく、少し吊り上がった綺麗な二重瞼でキッと睨まれた後、やっぱり怒られてしまった。
「ちゃうやんかっ!高校行くか、働くか、それとも落ちぶれていくかってきいてんのっ!」
 、、、できることなら、落ちぶれていきたくはない。
 みどの言葉通り、中学3年生の秋を迎えたオレ達は、もうそろそろ次の場所へと進む準備をしなければならなかった。
「別になんも考えてへんけど、なんでやねん?」
 みどは、オレの答えにちょっと口を尖らせて、冷たい秋風に真っ白な頬を赤く染めながら、
「まだ、頑張ったら高校行けるんとちがうん? 伊丹やったら、カンニングとか得意そうやから、いけるんとちがうん? 北高、頑張って受けたらいいのに、、、。あ、そうやっ! カンニングしたらいいねんっ!」
 北高とは、学区内にある公立高校で、オレたちの通う中学校の3分の2の生徒が進学する高校だった。
「ハッハハハ、なんでカンニングやねん」
「アホやから仕方ないやんかっ!」
 間髪入れずに、また怒られてしまった。アホにアホとは身も蓋もないが、こんな難しい年頃の娘さんをもって親御さんもさぞかし大変であろう。その苦労がしのばれた。
「あっ!焚火やってる!」
 女心と秋の空。みどの喜怒哀楽はコロコロと入れ替わった。
 焼却炉の前で、用務員のオッサンが落ち葉を燃やしているのを発見すると、キャッキャッキャッキャッ言いながら焚火へと駆けていった。
2人で持っていたゴミ箱の手をみどが急に離したので、したたかにスネをぶつけた後、しっかりそこからはオレ1人でゴミ箱を持たされた。
 用務員のオッサンは「ちょうどエエところに来よったな~」とノンビリ言いながら、オレとみどを歓迎してくれ、この不良オヤジ、酒を呑んでおったな、ともろにわかる酒くさい息を白く濁った息吹きに混じらせた。
 そして、オッサンは焚火の中からホッカホカの焼き芋を1本取り出すと半分に割り、オレとみどに分けてくれた。オレとみどは「ラッキーやったな」「うん、ついとったなっ!」とハグハグ言いながら焼き芋を頬張った。
 焼き芋を頬張るみどの笑顔が嬉しくて、オレも笑顔で頬張った。
 いつもは、近すぎてそこまで考えたことはなかったけれど、みどの笑顔を見て笑顔になっている自分に気がつき、あぁオレはこの子のことが好きなんだな、と思った。
 なんだか2人だけの秘密ができたみたいだった。
 なぜさっき、みどはカンニングしてでもオレに北高に進学しろと言ったのだろうか。
 みどが北高に進学するなら、オレもカンニングしてでも北高に行ってやろうかな。
 気の早い一番星が暗みかかった空で、1人瞬いていた。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)