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エピローグ

『生野が生んだスーパースター文政』好評発売中!

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エピローグ


ヒカと出会ったころは私自身どん底を彷徨っていたころで、ヤクザ稼業のかたわら小さな居酒屋を自分で営み、ワンルームマンションの片隅でくすぶり続けていた。

何もなかった。本当に何もなかった。2度目に取得した自動車の普通免許も取り消されていたし、乗っていた自家用車も売り払っていたので、生活水準も究極に貧しかった。

そんな状態の最中に私の目の前に現れたのが、ヒカとみどの光合成姉妹だった。
みどは出会ったころから全くそのスタイルにブレがなく、終始一貫、私の事を呼び 捨てにし、人に叱られるのが大嫌いな娘さんであった。
ヒカは天真爛漫。行きたいところに行きたいときにどこまでも行ってしまい、やりたい事を底抜けの明るさでやってのけていた。

日々にあくせくしていた私には、その姿が斬新であった。
そして、ある日から、私の居酒屋のカウンターの中にヒカが立つようになり、店の事を手伝いはじめてくれるようになった。
みども働いた事があったのだが一週間で飽きてしまい、一切手伝わなくなってしまったが、毎日のように店に姿をのぞかせて無銭飲食を繰り返し
「な〜沖田っ! 原チャリかってやぁ~!」
とチャリンコしか持っていない私に、無理難題を押し付けてきていた。

なんとかかんとかやっていたのだがある日、入り用が重なってしまい、持ち金がついに底を尽きかけてしまったときがある。
私は困りに困り果てて、はじめてヒカの前で弱音を口にしてしまった。

「もう、あかんかもしれんわ......」

金がなければヤクザだってもちろんできないし、生活だって営んでいく事ができない。
振り返ってみても、この時期ほど金に悪戦苦闘を強いられた時期はない。
そんな私にヒカは全くの戸惑いを見せず、普段と変わらない明るい表情でこう言っ た。

「沖ちゃん! ヒカはな、タバコさえ吸えたら大丈夫やねん!」

この時に「どうすんのよ!」と言われていたら、私は実際潰れていたかもしれない し、どないでもなりさらせ!と、また昔みたいに人の道から外れてしまった事を繰り返してい たかもしれない。
だけど、このひと言が私に踏ん張る勇気をくれた。

ヒカからすれば、なんにも考えもせず口にした事だったと思う。
だけど、私にはもう一度立ち上がる原動力になった。
立ち上がれば不思議なもので、必ず状況が好転するものである。

数日後、突然、見ず知らずの携帯番号から、私の携帯電話に着信が入った。
くだらん相手だったら、文句を山盛り言ってやろうと思いながら私は通話ボタンを叩いた。

「兄弟、帰ってきたど!嵐を巻き起こしに帰ってきたど!」
文政だった。
生野が生んだスーパースターが出所してきたのだ。


私は色々なところで人を傷つけ、人に迷惑をかけてきたかもしれない。
そこには、ウソや偽りもあったと思う。
だけど、私には裏切ってはいけない人たちがいる事を遅まきながら、知る事ができ
た。
今では、暮らしにあくせくする事もなくなった。
豪華な暮らしとまではいかないが、少しくらいなら女の子のいる店に遊びに行く事だってできるくらいにはなった。
だけど、私は遊びには行かない。
もう、ヒカは忘れているかもしれないが、苦しい時に、ヒカが言ったひと言があの時の私を支えてくれた。
ヒカを裏切れば、私は必ず後悔するだろう。

今日もヒカは、みどを助手席に乗せながら、高速道路をかっ飛ばし、見知らぬ山奥へと夜景を見に出かけていった。

「沖ちゃん!夜景めっちゃ綺麗やで~! 見える~!」

見えるわけがない。電話なのである。
それを代弁するように、ヒカの後ろから、みどの笑い声が重なった。

「ヒカ、電話やねんから見えへんて〜」

●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)