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大阪刑務所が誇るパン工場

沖田臥竜の日常エッセイ!「茜いろの日々」第5話

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大阪刑務所が誇るパン工場


もう随分と前の話しだが、関西管区の刑務所に務める懲役たちの間で話題になった話しがあった。

「おいっ!聞いたか、大刑(大阪刑務所)にパン工場が出来たらしいぞっ!」

だからどうした、と言う話しで恐縮だが、聞かされた懲役たちは、確かに「うおおおおおっ!!!」と喝采をあげていたのである。
事情通は続けた。この事情通は確か前科3犯あたりのコソ泥だったと記憶する
「なんでもそのお陰で、今、大刑は毎朝パンを食えるらしいねんて!」
コソ泥の話しを聞きながら、私はこう思った。次に務めるなら大刑だな、と。
刑務所のお務め中に、次の務め先の心配をしているところが我ながらバカ以外の何者でもないが、その念願は出所後、半年もすると叶うことになってしまうのである。

実際、コソ泥が言っていたように、大阪刑務所では毎朝コッペパンが食卓に並んだ。
他の施設では、ほとんど週に一度くらいしか拝めないパンが、平日の月曜から金曜まで毎朝、食べれるのだ。
「もうけたもうけた」と全く儲かってもいないのにコッペパンを頬張る私であったが、ただ他の刑務所よりは実際「儲かった」のは事実である。

懲役という生物は、日頃の粗食のお陰で例外なく甘い物に飢えているのだ。それが毎日コッペパンにつく塗りもの。イチゴジャムやオレンジママレードのお陰で、どれだけ飢えがしのがれたことか。
おまけに4日に1度くらいの割合で、パックのコーヒーまで出るのである。まさに社会でいうモーニングであるまいか。

儲かったのは甘さへ飢えだけではない。体質にもよるが懲役というものは、どこかで知らず知らずのうちに神経を使っている。結果、大概の者が慢性の便秘を煩わされることになるのが、その便秘をパンに混入しているイースト菌が解消してくれるのだ。
イースト菌くらいで、お通じが良くなるなんて塀の中くらいと思われるが、その効力を思い知らされるのはイースト菌だけではない。

カフェイン。懲役を半年もやれば、カフェインが実はどれくらいの効力を持っているのかも思い知らされることとなる。
社会では当たり前のようにコーヒーを誰でも飲むため、免疫力がついてしまいその効力に身体が反応しないが、懲役にはその免疫が削がれてしまっている。そのため、たまにコーヒーなどを飲むと目に見えて元気になるのだ。
カフェインの効力は、覚醒剤の効き目に似ており、シャバでポン中と呼ばれてる人種が中で飲むと、目をギラギラさせて一生懸命、掃除を始め出したりするのである。
「あいつ、今日コーヒー飲んで効いとんな」
という言葉も、ギャグではないのだ。

「毎日パンが食べれて4日に1度はコーヒーが出る。この懲役はもらいやな」
と思っていた私が、シャバではそんなことで「もらい」にならないと気づくのは、もっと後の話しであった。

●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)