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客層は全員ヤクザ

沖田臥竜の日常エッセイ!「茜いろの日々」第4話

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ー客層は全員ヤクザー

懲役用語の一つに「懲役ヤクザ」という言葉がある。意味は大まかに分けると2つあり、1つは刑務所の中でしかヤクザが務まらない。社会では通用しない、とする意味と、もう一つは、刑務所の中だけエセ組員となり、ヤクザを騙るという意味である。
どちらにしても褒められた言葉ではないのだが、後者は特に刑務所の中に入るとウヨウヨ生息している。
工場が変われば騙る組織も変わってしまう掛け持ちの「騙り」だって、そんな珍しいものではない。
だいたいは怪しいと睨んだ世話好きな懲役が、よせば良いのにあの手この手を駆使し、めくりあげてしまうのだが、めくられた騙りの末路はだいたい哀れなものである。「騙り」のレッテルを貼られ、工場から放り出されてしまうのだ。
稀にイレギュラー的ではあるが、工場を仕切る懲役に拾い上げてもらい、生き残りをかける騙りも見受けられるが、大半がのちに工場を後にするハメになっている。

騙りを見抜く方法の一つとして、シャバへと鳩を飛ばし、騙りがかたる組織に社会から連絡を入れてもらう、在籍確認という実に手間暇をかけた手法も使われることがあるにはあるが、実際はどこの組織も即座に電話で在籍の確認に答えるケースはまずない。
というよりも、私が現役だった頃は在籍確認について、総本部から電話での問い合わせの際、即答で答えてはならないと通達されていた。
そもそも在籍確認を入れてくる時点で良い話しの訳ないのだから、そうした対応になるのも必然と言えば必然である。
他にも塀の中には「騙り」以外に、組織から追放されているにもかかわらず、勝手に復縁してしまってる懲役も多く務めていたりする。
割合でいえば中で現役を名乗る3分2は、そうした「騙り」とみて差し支えないだろう。

それに比べ社会では、そこでメシを食ってるだけで、わざわざ本人に「どっか縁おもちでっか?」と尋ねなくとも、現役だと分かる食堂が六代目山口組には存在している。
最寄りの駅は阪神大石駅。食堂までの所要時間は徒歩で約10分ほど。値段も全てリーズナブルを超えてみせた一切タダ。タダだからと言って味も悪くない。
ただ残念なことは一般客お断りの所と、メニューが決まってしまっているところだろうか。
会員制ならぬ組員制。人はその食堂を『山口組食堂』と呼んでいる。

私も現役時代には、よくお世話になったこの食堂だが、作る方も食べる方も「全員ヤクザ」なのである。
今思えば、その客層は一種異様な光景だったのだろうが、そのときは気にもならなかった。
ただメシを頬張りながら、ここには塀の中に存在する「騙り」がいてへんな、と思いクスッとしてしまったことがあった。

世は広しといえども、これだけ暴排条例が席巻している中で、通うお客さんが全員ヤクザという食堂は他にないだろう。

●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)