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塀の中でもめでたき正月

新連載!沖田臥竜の日常エッセイ!「茜いろの日々」第3話

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ー塀の中でもめでたき正月ー


不覚にもまだ私が現役の受刑者だった頃。そんな配慮は微塵もなかったのだが、ゆとりに始まった過保護の世論は塀の中にも浸透しているようだ。
無論、施設にもよるだろうが、神戸刑務所では65歳以上の高齢者の犯罪者には「メリヤス」と「毛布」の増貸与が施されているという。
凍てつく寒さに、こんなもんくらいでは屁のつっぱりにもならぬが、何もないよりは有難いか。
「おい!彦じいさんっ!来年の冬には65歳になるので良かったやないか。メリヤスが一枚増えて」
「そうじゃ。わしゃ、5年も前からそれだけが楽しみでの〜」
.....対して有難かないか。

それにしても太郎(懲役)たちから、その地名の由来で「大久保」の愛称で親しまれし神戸刑務所よ。
もっとつっこんで言えば神刑の教育課よ。
我の文学を更生の妨げとはなんと心得る。
拙書『尼崎の一番星たち』を閲覧不許可の強制領置とは、なんたる嘆かわしい処遇である事か。
山陰に目を向けてみろ。本人が服役中だというのに平然と『生野が生んだスーパースター文政』まで読めておるのだぞ。
さては現在の教育課長が、塀の中で私を世話したことがあるのではないか。それならば私の文芸を偏見されたとしても納得である。なにせ作業という仕事もせずに、ケンカばかりしていたのだ。その色眼鏡も致し方あるまい。


待ちわびていたのであろう。悲喜こもごもの受刑生活の中で、友人から宛られた便りによれば、正月を楽しみにしていたことがひしひしと伺える。
同じ刑務所といっても、施設によってその処遇は異なるのであるが、どの刑務所も12月29日から1月3日までは正月休みに入る。
シャバの人たちが知れば「犯罪者のクセに正月休みとは言語道断じゃ!」と眉間にしわを寄せられそうだが、まあそうカリカリせずに聞きたまえ。
シャバと比較すると、ちゃんと虚しさで包まれておる。
「大晦日は紅白を見れるから、値打ちやでな」
こんなもんで値打ちがシャバでつくか。つかぬだろう。正月休みといえど、そのレベルである。

正月休みの良し悪しは、なんと言っても正月に配られる特食と甘味品にかかっている。
それを見て、懲役たちは罪の償い中であることも忘却の彼方へと追いやり、「大阪刑務所は正月が良い」「京都刑務所は正月が悪い」と身勝手に言うのである。
その基準に照らすと、今年の神戸刑務所の正月は悪かった方だろう。
先陣を切る形でまず12月29日に、ポリンキーとクランキーチョコと50円ほどの源氏パイ(小)。これで年内を満喫しろ、と仰っているのだ。
ただしどこの刑務所も大晦日の夕刻には、年越しソバが頂ける。
大概がカップ麺の天ぷらソバと相場は決まっているのだが、今年の神戸刑務所はなかなかのサプライズを提供している。ソバではなくチキンラーメンを配布しているのだ。所長の息子さんでも日清食品で働かれているのだろうか。
本の閲覧の許可不許可の采配を振るうのは教育課となるのだが、献立を牛耳るのは用度課である。
昔は懲役たちから嫌味をこめて「用度課長を2年つとめれば家が建つ」と揶揄されていたが、まだまだその名残りは健在といったところだ。

新年は元日のおせちの折り箱(約800円)を皮切りに、一口サイズのモチ6個入り(約100円)、仏壇に供えるのはみかけるがそうそうシャバでは味わう機会のない鯛菓子(約150円)。フルーツはみかん4コ。
翌2日は、じゃがりこ、おにぎりせんべい、LOOKチョコのラインナップ。たったこれだけだが、日常の受刑生活からすると、確かに正月は訪れている。
3日にもなんらかの甘味品が配られたと思われるが、便りが2日に記されている為、3日の記述はない。なので誤差はあるかも知れぬが、年越しにかかった費用は、1人あたまざっくり2000円といったところか。
2年連続で用度課長をやれば家が建つかどうかは別として、13年所内で年越しをやった私からみても、この金額は安く上がってると言える。
出された物を有り難く頂くのが懲役の身分なので、文句を言える立場ではないのだが。

ともかく友人は元気そうである。日本語を全く操れないベトナム人や韓国人と同居生活を敷いられながら、「今年で52歳だと言うのに下の息子が言う事をきかず、エロ本が役に立って居ります。本当にバカ息子です(笑)」と笑ってるくらいだ。
それなりに6度目の受刑生活を送日してるのだろう。

文の終わりには、自分の名を記さず「清原和博」と綴っている。これが田代まさしやASKAと書いている時もあるのだが、神戸刑務所。手紙の検閲係だけはかなり懐の深い刑務官とみた。

『追伸
新聞の広告で読みましたが、溝口敦が「山口組三国志」という本を出したんですね。ここでは200パーセント読めませんが、、、』


逆にだ「尼崎の一番星たち」が入らないのに、題名からして「山口組」と表記している本が入れば、もうそれは個人的恨みによるものでしかないだろう。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)