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〜博打と女と兄弟分〜

『尼崎の一番星たち』出版記念!生野が生んだスーパースターTake2

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〜博打と女と兄弟分〜


「文政」のスタイルは、相手が誰であろうとタメ口である。刑務官であろうが、ヤクザの組長であろうが、おおむねタメ口で通す。
 刑務所で一緒に生活している時に、外の社会から『某有力二次団体の幹部で迎え入れたい』というオファーがきたのだが、迷う事なく、「ええ、ええ、ワシはええ。そんなん受けたら自由がなくなってまう」と言って断りの手紙を入れ、そのかわり自分のファミリーでヤクザをやっていた者を直参に上げていた。


 地元にあるその某組織との関係を大事にはしていたが、"型にハマる"という事を極端に嫌っていた。
 そんな事よりも彼の頭の中を支配していたのは、バクチと女、たまに釣りと車くらいだった。
それを邪魔されれば、誰にだって立ち向かってしまうだろう。彼にとってバクチや女は、『朝になったら朝飯を食う』のと同じくらい、ごく当たり前の事であった。


 一度、バクチの最中にガサ入れが入り、バクチ場に警察官が雪崩れ込んできた事があった。
「全員、その場を動くな!」と制止しようとした警察官に対し、彼が放った一言がこれである。
「やかましんじゃい鼻クソ! 目がかわるやろがいっ!」
 言えるか普通。
 挙句、胴元に「早よせんかいっ」と勝負を再開させ、その勝負をスってしまうと、不機嫌に立ち上がって警察官を見渡し更に一喝。
「オドレらのせいで負けてもうたやろがいっ! ボケがっ!」
と、怒りながら帰って行ったのである。
 この事を、「文政」に言わすと、「計算やっ」と言っていたが、さにあらず。彼は、バクチの最中に集中力を切られる事を何より嫌うのだ。それは、警察官だけでなく、彼が何より愛してやまない女達でさえ、同じであった。バクチに入れば、女すら二の次になってしまう。


 彼の博才であるが、博徒だったクセにバクチをたしなまないズブの素人である私が見ていても、弱くはないだろう。ここ一番のセンスも持っているし、流れを引き寄せる運もある。博才打ちとしては悪くないと思う。だが勝てない。ていうか、負けるまで止めないのである。
 そして、大枚をスると、現実逃避するかの如く釣りへと出かけ、勝負を振り返ったりしている。
 その帰り道は、決まって私の所に寄った。何時であろうがもちろん彼には関係がない。私が本部にいれば、本部に寄ってお茶を飲んで帰っていく。
「兄弟の顔みたら、元気なるわ」と言われるが、多分、バクチに負けた自分より、ナチュラルに不幸ヅラしている私の顔を見て、バクチくらいでヘコんでいてはあかん、と思っていたのではあるまいか。


 私には、この「文政」以外に、もう2人兄弟分がいる。
 1人は地元の同級生で、同じ組織で活動していたが、10年近く前に直属の部下を数名引き連れ東京へと進出し、風俗界でのし上がっていき、今では社長におさまっている。
 そして、もう1人は九州の地におり、年齢は私より9つ上の51歳。バリバリの極道である。
 私達の関係は、年齢や組織の垣根、立場を超えての兄弟の契りを結んだ同志なのだが、後にも先にも4人が揃ったのは、一度だけであった。
 それは私の結婚式だった。


 場所は北新地。九州の兄弟も東京の兄弟も、前日には大阪入りしていたのだが、案の定、大阪の「文政」だけは、当日になっても連絡がつかない。
 彼の性格を考えれば当たり前だったかもしれないが、私が結婚式の日取りの電話を彼に入れた時には、「半袖、短パン、スリッパで正装して、『乾杯』歌うわな」と言っていたので、少し油断?していた。
 とうとう、挙式が始まってしまい、私もあきらめていたのだが、キャンドルサービスで各テーブルを回っていると、大阪刑務所時代に仲良くなった人間を集めたテーブルに彼はしっかりと座っていたのである。
 服装も彼には似合わないスーツにネクタイ。
 その後がまた彼らしかった。


 式の途中で私にメールを寄こし、「間に合わんか思たがな~、今日はおめでとうさんやで~。バクチの最中やから帰るけど、また電話するわな~。愛しとんで、兄弟!」
とメッセージを残し、ミナミのバクチ場へと帰っていった。
 その後、二次会で地元に戻り、当時の部下が経営していたバーで呑んでいると、勝負を早めに切り上げてきたのか「文政」が再び顔を覗かせた。


 その席で、東京と九州の兄弟を含む4人で、4兄弟の契りの盃を交わしたのだった。



●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)