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ーその男、爆弾につきー

『尼崎の一番星たち』外伝 〜かぶれ者〜

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ーその男、爆弾につきー


 爆弾は、私よりもはるかに歳が上で、ヤクザに対する憧れを強烈に持った、かぶれ者であった。
 人手不足でなければ、そんな爆弾に関わり合いになることもなかったのだが、いかんせん業界も不景気ゆえの人材難。めぐりめぐって目の前に現れた爆弾を、私は抱えこんでしまうことになったのだった。
「ええか、バクダン(仮名)。お前はヤクザとちがうねんぞ。あくまで、オレ個人の用事を手伝ってるだけやからな!」
 バクダンにヤクザ事とは程遠い雑用を任せるたびに、私はこう言い聞かせていたのだが、このバクダン、「わかってま!」と良いのは返事だけで、まったく分かってくれない。
 時代遅れの着流し姿で飲み屋街に出ては「〇〇組のバクダンじゃ!」とやってしまうのだ。
 それを知るたびに、私はこっぴどくバクダンを叱りつけていたのだが、いっこうに素行がなおらない。いくら業界が人材不足とはいえ、これ以上付き合いを続けて本当に爆発されても困るので、私はバクダンを抱えるのをやめることにしたのだった。
 そんなバクダンの記憶も時間とともに風化していき、かるく1年の月日が過ぎた頃のこと──。


 ◯ 基本、中国人とヤクザの朝は早い。


 私は、いつものように組事務所でデスクに腰掛け、届いた朝刊に目を走らせ、ヤクザ記事を追っていた。すると、こんな記事が目に留まった。
 住所はこの近くとある。だが、容疑者の名前はまったく聞いた事がない。はて? どこの組員であろうか、なんてことを考えながらホットコーヒーを飲んでいると、私の導火線に火がついていた、、、失礼。私の携帯が鳴りだした。
「おはようごさいます~。新聞見はりました? あれって、沖田さんのトコでっか?」
他団体である□□組の幹部からである。
「おはようごさいます。不正受給のヤツでしょ。ウチ違いますよ。名前も聞いた事ないですわ~」
 この時までは呑気であった。導火線に火が点いたとも知らず、ホットコーヒーをふうふう言いながら飲んでたくらい呑気であった。
 そうこうしているうちに今度は事務所の電話がけたたましく鳴り響いた。当番者が受話器を上げる。
「〇〇組! あっ! おはようごさいますっ! △△のおじさんっ!ですか! はいっ! はいっ! 責任者に変わらせていただきますので、一旦保留を押させてもらいますっ!」
 当番者は受話器を置くと、私に向かい、「叔父貴! △△のおじさんですっ! 1番ですっ!」と知らせてきた。それを受けて、私はデスクの上にある固定電話の受話器を上げ、1番の保留ボタンを押した。
「沖田です。おじさん、おはようございます。どうされました?」
「おう、沖ちゃん、おはようさんっ。新聞みたか? あれ、そっちの人間か?」
 先ほどの他団体幹部と同じ内容の問い合わせであった。
「いえ、違います。さっきも□□組から問い合わせありましたんで、□□組でもない思います」
「そうかっ。また、わかったら、ウチの事務所にでも電話くれや~」
「わかりました」と応え、通話が途切れたのを確認した後、私も受話器を置き、ホットコーヒーを飲み干した。
 実はこの時点で、爆破まで5分前であったのだ。そんな事を露とも知らず、今度はスポーツ新聞なんかを読み始めていた。
 爆破3秒前。
 テレビ欄を確認していたあたりであろうか。再び、私の携帯電話が鳴った。かけてきたのは先ほどの□□組幹部である。
 爆破2秒前。
「今、〇〇署のデコ(刑事)に聞いたんでっけど、さっきの新聞のヤツ、沖田はんの若い衆ゆうてまっせっ~」
ドーン!

「またまたぁ、オレ、そんなヤツ知りませんよ~」
「なんでも、養子縁組して名前変えてるらしいでっせ~。どうも、デコの様子では、コイツで引っ掛けて、沖田はんを持っていきたいみたいでんな。はよ、対処したほうがよろしいでっせ~」
 ドンドンドーン!
 無造作にデスクの上に置いておいた朝刊を乱暴に開き、さっきの記事を読み直した。苗字はまったく知らない。だが恐る恐る下の名前を確認すると──バ、バ、バクダンではないか!?
 ドドドドドドドドドーン!!!!!!!!!!!
大爆発である。
 そこからの警察に対する私への攻撃は、まさしく弱い者イジメであった。私の所属していた組の本部事務所を皮切りに、関係先をかたっぱし家宅捜索され、任意の取り調べも始まった。
「フダ(逮捕状)持っていったってもええんやけど、どうする? 出てくるんかいっ(任意で出頭する気はあるのか)」
 とても任意でお願いしているとは思えない口調である。
 容疑は、犯罪収益移転防止法。略して犯収法。要するに、バクダンが不正に受給した生活保護費が私に流れていたのではないのか、と、こう言いたいのである。
 確かに私はバクダンを雑用係として使っていた。だが、ヤクザにはしていない。したがって、組員でもない小方から親方が会費をとるわけがない。てゆうか、私は抱えた下の者から会費をもらったことがない(おかげで、現役時代は貧乏ばかりしていたが......)。
 結局、私の身を救ってくれたのは、バクダンと私の着信履歴であった。警察が互いの着信履歴をさかのぼって調べてくれたおかげで、私とバクダンの関係性が1年も前から全く途絶えていたことが証明されたのだ。
 にもかかわらず、バクダンのほうではどうしても爆発しないと気がすまないらしい。取調べで刑事が「お前ヤクザでもなんでもないんやろ?」とわざわざ言ってくれてるのに、
「いんや、現役ですわっ!」
 と言い続けていたらしい。おかげで、私は検察庁にまで呼び出され、「どっちなんだっ!」と怒られてしまった。
 その後、バクダンはヤクザでないことが証明され、(バクダンにとっては無念の)釈放となったのだが、バクダンは納得いかなかったのであろう。
今度は性懲りもなく大手武闘派組織の代紋を騙り、すぐさま御用と相成って、念願の"還らぬ人"となってくれた。
 願わくばだ。一生、塀の中で(自称)ヤクザとして生きていって欲しい。というか、シャバに帰ってくるな!である。

●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)