>  > 実録「駆け抜けた弾丸が幕を下ろした内部抗争」 文・沖田臥竜
〜紙面を大きく賑わせた発砲劇〜

実録「駆け抜けた弾丸が幕を下ろした内部抗争」 文・沖田臥竜

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〜紙面を大きく賑わせた発砲劇〜

 その内部抗争の最中に出た死者は一人。弾いたのは警察官。内部抗争とは直接関係のない死であったのだが、もし男が生きていたなら、私のその後の人生も違うものとなっていたかもしれない。


 深夜。警察官二人は、ファミレスの駐車場を徘徊する二人組に職務質問をかけようと近づいた。
 それに気がついた二人組は、停めてあった白のセダンに飛び乗り、そのままバックでフェンスを突き破って逃走をはかった。
 この時、受けた衝撃でセダンは後輪を大破させてしまい、慌てて追跡してきたパトカーにすぐ追いつかれる事になる。
 だが男がハンドルを握るセダンは、通行禁止の商店街などに進入しながら全く停止する気配を見せなかった。
 後輪を大破させていなかったら、パトカーも追跡を断念していただろう。
だが後輪を大破させていた為に、男がいくら危険な運転を繰り返しても、すぐさまパトカーに追いつかれる事となった。


 そのまま15キロ逃走し続けたセダンは、大阪市内の堤防沿いでパトカーに追い越されてしまい進行を塞がれてしまう。
 行く手を阻んだ警官二人は、パトカーから飛びおり、運転席の男に制止を求めた。
 それに対して男が出した答えは、パトカーへの衝突だった。


「どけっ! どけっ! どきさらさんかいっ!」


 男はこう叫びながら、何度も何度もパトカーにセダンを衝突させた。
 警官二人は何度も停止を呼びかけた。しかしもう男は停まろうとしなかった。


「停まれ! 停まらんと撃つぞっ!」


 警官の一人がピストルホルダーから拳銃を取り出し、運転する男に銃口を合わせて叫んだ。
 だが、男は停まろうとしなかった。
 やむを得ず警官が引き鉄を絞った。乾いた銃音が辺りに響き渡る。立て続けに三回引き鉄を引いた。
 そのうちの一発が男の心臓を貫通した。


 享年47歳。男が死んだことで、内部抗争に端を発して始まった一連のトラブルは、一応の幕となったのだった。
 撃ち殺された男と私は、元々身内同士であった。だが、男が組織から破門され、懲役へと入ったことで袂を別つ事になったのだ。
 男の服役中に、私と男が所属していた三次団体は解散し、結果本部の直参として残った私サイドと、抜けた側とでやり合うことになっていた。
 兄弟分の文政も、そして文政の実兄の弘吉さんも男と知り合いだったのだが、私の応援で何度となく尼崎へと駆けつけてくれていた。
「兄弟、どないしたんどいっ! 揉め事やったら回したらんかいっ!」
と文政が言えば、弘吉さんは
「尼のブラザー、ギャングはあかへんてっ!」
と何処にいても10分足らずで応援に駆けつけてくれたのだった。
東京の兄弟分も九州の兄弟分も尼崎へと入っていた。
東京の兄弟は 、ずっと私の家に泊まり込んでくれ、九州の兄弟は当時、所属する組織の若頭という地位にあったのだが、内部干渉を承知で、尼崎へ入る前に自身の組長に断りを入れていた。
「親父、すいません。尼の兄弟が揉めとうです。組ば迷惑かけるかしれません」
事の経緯を黙って聞いていた組長は、口を開きこういった。
「カメとヤマを連れていかんね。あとのことは心配せんでよか」
現在は他界されているが、シルクハットの似合う昔気質の組長だった。自身の配下の組員が、エンコ(指)を外して(詰めて)持ってくると、爪を剥いで肚に入れるような組長だった。

 そうした道中に出所する事になったのが、警察官に射殺された男であった。
 その頃、私は男の破門を解いてもらうように働きかけており、男が出所すれば迎え入れる体制を整えていた。
 その為、私は人伝てに耳にした男の出所の日に、文政と一緒に刑務所へと迎えに行っている。だがここで後へと続く狂いが生じてしまうのだ。


 文政もそして実兄の弘吉さんも男とは付き合いがあった。
「兄弟、今日と違うんと違うか? もうさっきの奴で最後やど」
 私が伝え聞いた満期日が男の出所日と違っており、男を迎えることが叶わなかったのだ。
「そうみたいやな。しぁない帰ろか」
 ここで運命ははっきりと別れた。
 男は中で知り合ったある幹部と縁を結び、私と激しくやりやっていた側と繋がっていく事になってしまったのだ。


 これが原因で、迎えるはずだった男と私は向き合って構えることになってしまう。
 渡世上、処分を回されている者を拾う事は固く禁じられている。その為、私の心情がどうであれ、それを知ってしまった以上、男を拾い上げた組織にクレームを入れなければならない。
 筋はどこまでいっても、ウチにあると思っていた。
 相手組織の窓口の人間と話している時に、本人とも話しをすることにもなった。
 そこで売り言葉に買い言葉の大ゲンカになってしまうのだ。
 結局、組織の上層部の知るところとなり、男を拾わないということで形式的には収まりを見せた。
 だがおさまらなかったのが、その男本人であった。
 私を「必ず殺したる!」と言い出し始めたのだ。
 そこから、水面下で様々とやりやっていた内部分裂のバッティングは時に警察の介入を見せながら、一気にエスカレートしていったのであった。


 そうした矢先に、男が警察官に弾き殺されたのだ。
 その死について、私は微塵の哀しさも、感傷に似た寂しさも抱いてはいない。
 あるのは、男が殺されたという現実だけだった。
 男も私もそういった世界で生きていたのだ。
男がこの時、殺されていなければ、歯止めを見失っていたバッティングはどうなっていたか分からない。
 誰かが犠牲になっていたかもしれないし、その誰かが私だったかもしれない。男が射殺されてしまった事で一連の内部分裂は次第に沈静化していったのだった。


「華々しく銃声が上がるばかりが、ケンカやないからのっ」


 時に様々な人間関係のもつれから水面下で激しくぶつかり合うこともある。
 煙草の煙を天に向かって吐きながら、文政が呟いた言葉が、いつまでも私の心の奥底に残り続けていたのであった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)