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『兄弟、これいけるかもしれんど!』

『尼崎の一番星たち』著者・沖田臥竜の単行本発売記念特別エッセイ「いけるかもしれんど兄弟」

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『兄弟、これいけるかもしれんど!』

 私の兄弟分を描いた作品『生野が生んだスーパースター 文政』が去年10月3日に上梓され、今年11月には、その第2弾ともなる『尼崎の一番星たち』が発売された。
 思えばこれまで、私は余りにも多過ぎる道を踏みはずしてきてしまった。
 そこに言い訳なんて一つもできやしない。
 全ては、自分で撒いて耕してきてしまった自業自得である。


 21歳で人を殺めてしまい、傷害致死と死体遺棄の容疑で逮捕され、8年の刑に服すことになってしまったとき、自分がどうしようもなく愚かな人間だという事に気付かされた。
 愚かはそれで終わらない。塀の中でもケンカばかりを繰り返し、14回の懲罰に座らされた。
 結果、8年のうち、7年間は他の懲役と顔すら合わすことの処遇上の独居暮らしとなり、懲罰も通算すれば1年を超えた。
 まだ監獄法の改正前で、面会も親族のみという厳しい時代のこと。人とまともに会話できるのは、月に一度、時間にしてわずか10分の母との面会くらいしかない暮らしだった。


 何度も「もうあかんな」と挫けそうになった。
どう考えても、そこから巻き返す未来が見当たらなかったのだ。前途を悲観していた訳ではない。ただ現実的に見て、もう無理としか思えなかったのだ。
 だけど、このままでは終われないという気持ちも確かにあって、そこで触れ始めたのが読書だった。
 今、振り返ると、この読書から全ての歯車は、動き出していった。


 とにかく、ありとあらゆるジャンルに手を伸ばし乱読を繰り返していった。そうしている内に、漠然と書くことで生計を立てていけないものか、と考え始めたのだった。


 そこから、私は独学を始めた。
 朝起きれば、般若心経を唱え、音読で国語辞典を読み、室内作業に就いた。
 室内作業を終えれば、急いで食事を済ませて、余暇は有名な作家の小説をノートに写し、自分の小説を書き続けた。
 独居暮らしの7年間はこの繰り返し。これと筋トレのみ。明けても暮れても、これを繰り返した。
 冬の寒い日には、霜焼けやアカギレで膨らんだ手を擦り、夏の暑い日には滝のように流れる汗をうちわ一本でしのぎながら、とにかく書いて書いて書きまくった。


 だけど、このバカはなんも変わっていなかった。8年の懲役を満期で務め終えると、半年のインターバルでまた御用となってしまったのだ。
 我ながら、どうしようもない。何の為の8年だったのか。何も変わっていなかった。


 そうして始まった旅路で、私の前に現れたのが文政だった。
 もうその頃には、文政の名はビックネームとなっており、大阪のアウトローの中で彼の名を知らぬ者などいなかったのではないだろうか。


 彼は徹底していた。後悔をしない。物事について囚われないのだ。
 
そんな彼を見ていて、私は思った。受け入れよう。全て受け入れよう、と。恥や失敗や後悔も全て受け入れて、そこからまた、始めてみようと。


 書いた小説の一番の読者になってくれたのが、いつも文政だった。
 お世辞知らない彼が、読み終えるといつも
「もしかしたら、いけるかもしれんど兄弟」
と口にしてくれた。この一言も私には随分と励みになった。


 私は、一生ヤクザで生きていこうと思っていた。その為なら、家族もいらないし人生棒に振っても構わない、そう思っていた。
 だけど、今こうして、カタギになり、家族を持っている。それも私の人生である。もう後戻りはできない。
 孤独に押し潰されそうになった中で、書いて書いて書いた暮らしが、まだまだ少しかもしれないが、報われようとしているのだ。
 自分で自分のことを褒めてやらんで誰が褒めてやんねん!という気分である。
 
 文政と彼のファミリーたちが織り成す生き様を多くの方々に知っていただければ、書き手冥利と思い、生野が生んだスーパースターを書き、生まれ育った街。尼崎に舞台を移し「尼崎の一番星たち」を描いた。
 平成がいくら年をとっても、時代がどれだけ変わっても、そんなものごときには流されも押されもしない男たちの物語。そして尼崎という街のスターたち。
まだまだ始まったばかりである。満足なんてしていない。クスッと笑って頂き、「あ〜あ、こんな時代もあったよな〜、尼崎って街はどんなところやろ」と思って頂ければ、幸いです。

「尼崎の一番星」そして「生野が生んだスーパースター文政」を、どうぞよろしくお願い致します。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)