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〜封印されたローリングソバット

「尼崎の一番星たち」出版記念!文政プレイバック㉖

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〜封印されたローリングソバット〜

文政が豪快な男であることは周知の事実であるのだが、文政や私と4兄弟の契りを交わしあったうちの一人、Sの兄弟もまた豪快な男である。


現在のSの兄弟は、生まれ育った関西を離れ、東京に拠点を移し、事業で成功を収めているのだが、若き頃のSの暴れぶりは、誰も手に負えるシロモノではなかった。


一度、大阪ミナミで酒を引っ掛けた帰り道、通称ひっかけ橋で通行人とケンカになった時など、次から次に7人の男たちをなぎ倒してしまい、駆けつけた警察官までもなぎ倒してしまった。
その代償は決して安い (短い)社会不在ではなかったのだが......。
 
Sの場合、パチンとスイッチが入ってしまうと、お見事なくらい修正が効かなくなってしまい、ヘタに止めに入ろうものなら、止めたものまで、得意のローリングソバットの餌食と化すことになってしまう。
ステゴロキング・バッテツやストリートファイターKのようにずば抜けた体躯の持ち主ではない。どちらかというと体格は小柄である。
小柄であるがケンカのセンスに長けており、そこに加えキックボクシングを取り入れたものだから、素人では手に負えない領域に到達してしまっているのだ。
 ──ローリングソバット── 


彼には、この技で語り継がれているエピソードがある。


さかのぼること、10数年前。彼は、ベンツの助手席に座り、高速道路のど真ん中に車を停車させていた。
運転席には、Sの目上にあたる者がハンドルを握っていた。
時代背景から、パンチパーマとでもしておこうか。パンチパーマはパンチパーマでやりっぱなしで鳴らしている男であった。


Sはパンチパーマに詰めよっていた。
「オノレが能書き抜かしとったんとちゃうんかい......ぷす......唸っとらんとなんかゆうてみんかい......ぷす......おうこら......ぷすぷすー」
ところどころ、ぷすぷすと聞こえてくるのは、Sがしゃべりながらパンチパーマの太ももをアイスピックで刺している音である。
パンチパーマもスパスパとアイスピックで刺され、これじゃ身がもたん、と考えたのであろう。


「うわわわわわわっっっっっ!」
と発狂しだしたかと思うと、ギアレバーをドライブに入れ、アクセルを踏み込んだ。いきなり急発進をしたベンツは勢い余って、中央分離帯に衝突。
そのまま横転してしまった。


「この餓鬼ゃ」
 ひっくり返ったベンツの助手席から血塗れになって這い出てきたSは、そういいながら、運転席で逆さになってぐったりしているパンチパーマを引きずり出すと、意識朦朧状態のまま無理やり立たせた。


この時、すでにSの右足は骨折していたという。その骨折していた右足を使い、
「そんなもんでビビるおもとんかいっ!」
と怒鳴りながら、スパーンと一発ローリングソバット。パンチパーマICU。S、右足粉砕骨折。


そんなSと文政を会わすのは、私にもある種の度胸が必要とされた。
だが、それは取り越し苦労であった。
類は友を呼ぶという。瞬時に2人は意気投合。


「沖田の兄弟から聞いとるで~。Sの兄弟はむちゃくちゃやって~」
「なにゆうとんの。文政の兄弟には負けるわ~」


はっきり言ってやろうか。どっちもどっちである。2人とも無茶苦茶である。豪快に笑い合う2人を見ながら、私はそう呟いたのだった............心の中で。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)