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〜ザ・レクサス〜

「尼崎の一番星たち」出版記念!文政プレイバック㉕

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〜ザ・レクサス〜

「おっ、兄弟の友達かいな~、ワシが文政や。それにしても、ええ車乗っ取るがな。それ君のか?」
 
私の友人を文政に紹介した時の話である。
友人の名はカートン。昔ながらの友人で、現在はカタギの仕事を一生懸命やっているが、ひょんな事から文政の話となり、裏社会のスーパースターに会ってみたい、とミーハー気分で言い出したので紹介する事になったのだ。
その時の一言目がこれである。
 
人物よりもカートンの乗っている車──レクサス──のほうが気になったらしい。


「はいっ、そうですけど......」


カートンも一時期、裏社会に身を置いていたわりには、文政をあまりにも知らなさすぎる。
ここは最低でも「父のです!」と答える場面である。


「ちょっと運転させたってくれや〜のぅ」
言うが早いか文政、もう勝手に運転席に乗り込んでしまっている。
「兄弟! 早よ乗りや!」
まるで、自分の車のように私を助手席に座らせると、車を走り出そうとしたので、カートンは慌てて後部座席に飛び乗った。
 
鼻歌まじりに、レクサスを操る文政。
後部座席で気が気じゃなくなっているカートン。
私に「文政を紹介して欲しい」とせがんだことを、早くも後悔している様子がルームミラーからも伺えた。
 
鼻歌の最中に文政が発した言葉は、
「ええの~ええの~レクサスええの~のうっカートン!」
だけである。
私が助手席に座っていなければ、
「ええの~ええの~レクサスええの~これくれや、のぅ!」
と、いとも容易くお願いしてみせていたに違いない。
そして、本人の意向とはお構いなしに、文政は陸運局へ向かったはずである。
それくらいの暴挙は、彼にとって朝飯前なのだ。
 
さんざん乗り回した挙句、車を出発させた視点まで戻すと、文政はカートンにむかいこう言った。


「カートンくん、ちょっと電話番号教えてくれるかな?」


さてどうする?
私は心の中でつぶやきながら、後部座席のカートンを見た。


「携帯持ってないんです!」
賢明な模範解答である。このドライブ中に、文政の人間性をあっと言う間に見極めてしまったのだろう。
「ウソやがな~とったりせんがな~」
と笑いながら、ようやく運転席から降りたった文政であったが、私は文政の性格を把握している。
かなり本気だったことは間違いない。
それを本能で感じとってしまったのだろう。
これ以降、カートンは私の電話すら出なくなってしまった。文政に会うまでは、あれだけ目をらんらんと輝かせていたというのに......。
 
私が、ひとりの友人を失った瞬間であった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)