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塀の中から社会にあてた手紙

小説「忘れな草」第42話 最終章 沖田臥竜

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塀の中から社会にあてた手紙

平成20年12月

拝復

別れ話しでこんなコト書くのは、見苦しいし、いずれあんなコト書かんかったらよかったって、後悔だってするかもしれん。
でもゆわんとどうしても気が済まんから、あえていわせてもらう。
最低な男やと思って読んでくれたらええ。
そんな男やったと蔑んでくれたらええ。
ほな言わせてもらうぞ。
お前、何か勘違いしてんのとちゃうか。
何が愛情か情かわからんようになってきたやねん。

お前、オレをゴミかなんかと思っとんのか。
好きやの、愛してるやの、おべんちゃら書いとったら、どこまでもつけあがりよって。
何がこんな気持ちで待ってるの失礼やしやねん。
あんな手紙書いて、送りつけてくるほうがよっぽど失礼ゆうのがが、わからんのか。

何を言うてもお前の心には届かんやろうが、オレは本気でお前とちびらを幸せにしてやろうと思とった。
淋しい夜に肩を抱いてやるコトも、祝いの日に指輪の一つすらこうてやるコトも今はできへんけど、
その分、帰ったら絶対に大事にしたろ思とった。

オレはどこまでいっても極道やけど、ヤクザでメシ食えんかったら、指ちぎってカタギなってでも、お前らだけには、不敏な思いさせんとこうって真剣に考えとった。
ホンマに待っとってくれたら、人生捧げたろうって本気で思っとった。
オレの人生なんてしょうもないかもしれん。
でもそのどうしようもないもんで、誰よりも幸せにしてみせようて。お前が一人で背負ってきたもん、全部オレがかかえて抱きしめたろうって...。

すまんの、一人よがりで。
笑ろたれや。見苦しいって笑ったってくれや。
オレは今までつなぎとめておきたいが為に、色々なコトをお前に書き綴り送ってきたけど、この期に及んでまで、心に思ってへんコトはよう書かん。
両手叩いて送り出したるとか、お前らの幸せ祈っとるとか、ありきたりの言葉で、ええ男気取る気なんてさらさらない。
どこまでいってもオレは最低じゃい!
後ろは絶対振り返らん。この手紙でお前のコトもチビのコトも全部忘れたらぁ。
しっかり前を向いて、この試練を乗り越えて、今よりもっと太い男になってみせたる。
ようおぼえとけ。
こんなクズがおったコトを。

荷物も全部すてたらんかい。思い出と一緒にオレのもんは、全部すてたらんかい。
二度と会うコトもないやろう。二度とお前のコトは思いださん。

夢にも出てくんな、バカタレ!

●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)