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〜我が家に愛犬がやってきた〜

小説「忘れな草」第36話 沖田臥竜

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〜我が家に愛犬がやってきた〜

「もう名前は決まってるのっ?」
普段は一番やんちゃでわんぱくなあいのすけだけど、こういう時の彼は、ゆま同様に抱きしめてやりたくなるほど、かわいらしくあったりする。
オレは少し考えた後、「ラブ」とこたえた。
「ラブぅ〜へんなのぉっ!」
「なんでラブよっ。この子、男の子でしょう?あかんよ。そうやっ、キットなんてどうかなっ」
多分ゆまは電信柱に貼られてあった、おばば発行?のチラシをみた時から来たるべき日にそなえ、ちびすけの名前をキットにしようと考えていたに違いない。
ゆまとあいのすけの強い反発?にあい、「ラブ」という名は即座に却下されてしまった。
オレがおばばから恐喝してきたというのに...。

「ぼくはポチがいいと思う」
りゅうのすけがぼそりとつぶやいた。
「なんでポチやねんっ。おまえ、あほちゃうかぁっ!」
オレが言ったのではない。
弟のあいのすけが兄のりゅうのすけに言ったのだ。
「うるさいわッ、もう向こういって、はよねろっ!」
「おまえが向こう行けっ!!」
今にも仁義なき戦いが勃発しそうな二人に、ママの雷が落ちた。
「いいかげんにしなさいっ!りゅう!あんたお兄
ちゃんでしょ、なんであいにそんな言い方すんのっ!」
「だって ー」
ママに怒られたりゅうのすけは今にもベソをかきそうになった。
「ぶうすけっ〜あほや〜」
「あいっ!あんたが一番悪いんでしょうっ!お兄ちゃんに謝りなさいっ!」
「うるさいっ!おまえが謝れっ!」
なんで、ゆまがりゅうのすけに謝らなくてはいけないのか、言ったあいのすけにしかわからない所だが、ゆまがいくら怒っても、秀虎はいつだってどこ吹く風だ。
「おまえって、あいっ!あんた誰にゆうてんのぉっ!
塚口も笑ってないで、あいに怒ってよっ!
だいたい、塚口があいのすけに甘いから、この子が調子のるんでしょうっ!」
気がつけば、怒りの矛先がオレに向けられてしまっていた。

その時だった。とらのすけが派手な音をたてて、自室から姿をみせたのは。
「うるさいねんっ」
とらのすけの一言にみんな黙りこくってしまった。
あいのすけでさえ、4つはなれたとらのすけのコトは怖いらしく、かりてきた猫のように、しゅんとしてしまった。
そんな中でちびすけだけが、くーんっくーんっと甘えた声を出しながら、とらのすけの足元にじゃれついていった。
とらのすけはほんのちょっとだけ、足元のちびすけを見おろした後、またすぐに背を向け、自室へと入っていった。

でもその時にとらのすけは、耳を澄ましていないと聞きもらしてしましそうな小さな声で、こうつぶやいたのだった。

「ラブでええんとちゃうんっ」


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)