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衝撃の最終回ラスト3!小説「死に体」第49話

衝撃の最終回ラスト3!小説『忘れな草』第49話

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平成6年冬

樹愛は泣いていた。
初めてみせる泣き顔だった。
オレの両コブシからは血がしたたり落ち、割れた床に散らばったガラスを赤く染めていた。
「自分の人生やねんから、もっと大切にしないかんて...」
樹愛の嗚咽だけが、いつまでも静かな部屋で続いていた。
もうそこには、二人で聴いたあの曲も流れていなかった。
予想していた通り、結局こうなってしまった。
翌日。家に帰ると、樹愛は部屋の中から消えていた。
テーブルの上には、置き手紙と、誕生日に贈ったネックレスが一緒に置かれてあった。
オレは起こるべくして起こった事態に、予想していながらも茫然と立ちつくし、こわばる手で置き手紙をとった。

ーごめん、じっちゃん、もう疲れてもうたかもしれん。
樹愛がそばにおっても、今のじっちゃんのコトは何もわかってあげられへん。
それが余計にじっちゃんを苦しめてしまってるかもしれへん。
樹愛も辛かった。
そばにおっても、何一つ支えてあげられなくて、だんだんと変わっていってしまう、じっちゃんを見るのが辛くて辛くてしかたなかった。
じっちゃんのコトは好きでしたい。
嫌いになりたくない。
このままずっと一緒にいれば、樹愛はじっちゃんのコト嫌いになってしまう。
だから出て行くコトにしました。
勝手なコトしてごめんー

P S
あんまりイライラしてかいたらいかんで


なんという追伸だ。
「もうっ、かいたらいかんてっ」
という言葉をいつの間にか、樹愛の口グセにさせてしまった。

この日をさかいにして、オレの中で何かが壊れた。
壊れていく意識の中で、さらにすべてをブチ壊していった。
今まで大切にしていた友人も裏切り、利用して踏みにじった。
やりたいコトを、やりたくないコトを、人が嫌がるコトを、人が恨むコトを、この手ですべてやっていった。
止まりはしなかった。
振り返りはしなかった。
誰の声にも耳を傾けず、誰もオレを止めれなかった。
そして気づけば、樹愛との未来を失った掌の中に、シャブを握りしめていた。

一人、二人と昔の友が去って行き、一人、二人とクズ以下の仲間が増えていった。
最後までオレを見捨てるコトなく、腐ったどす黒い場所から、救い出そうと必死になってくれた友人をオレは殴り殺し、行き着く所まで辿りついてしまった...。

「ええから、いっぺんだけ、ホンマいっぺんだけ出てきてくれやっ!たのむってっ、ホンマたのむって! !」
インターフォンに向かってかれた声を上げ続けた。
「もうっ、じっちゃんやめてえやっ、、。お願いやから、やめてえやっ 」
泣き混じりの声が、スピーカーの向こうから帰ってきた。
「たのむってっ、ホンマたのむってっ!なぁっ!たのむってっ!開けてくれやっ!なぁってっ!なぁってっ! !樹愛たのむつてえっ!!!」
友を殴り殺し、ケイサツに終われていたオレは、シャブを大量にブチ込み、狂ったように樹愛の実家のドアを叩いていた。
「お願いやから...もう、やめてって 、、、」
それが樹愛の最後の言葉になった。
気がつけば、オレは十人をこえるケイサツ官に囲まれていた。
「さわるなっコラァッ!ブチ殺してまうどおっ!はなせっ、はなせっ、はなせっ、はなせっコラッ!樹愛っ!きあいーツ!!」
狂った叫びは、上げたそばから掻き消され、世のもくずへと葬られていった。


狂った愛は、警察の介入により、終止符を打たれた。
クズはどこまで行ってもクズだった。
それはどうしようもないほどに、、、。


平成21年10月


十月一日
肌寒くなってきた。昨日までの暑さがうそのようだ。
昨晩は久しぶりにあいのすけが夢の中に出てきた。
夢なんてほとんどみたコトないオレが珍しい。
受刑生活も残す所、三ヶ月だ。
三ヶ月を切ると、ぐっと娑婆が近づいてくるような気がする。
同房の吉岡氏や身内の先輩達が、
「出所までもう少しやから、イライラしやんと、
大事に努めや」
と口々に言ってくれるので有り難い限りだ。
担当のオヤジも何かと気にかけてくれ、声をかけてくれる。
特に良いコトもないが、悪いコトもない、穏やかな毎日が続いている。
昨日より書き始めた小説は、出所までに、書きあげるコトが出来るだろうか。
今頃、ゆまやチビ達は何をしているだろうか。
今ならば、「幸せになれよっ」
なんて、高倉のケンさんになってやるコトも出来そうだった。

届くコトのない手紙をオレはかおりに認めた...。

前略

ゆまへ

何通、何十通、これまで、お前に便り書いたやろうか。
届くはずのない手紙を今こうして書いている。
わかってくれ、とはゆわんし、懲役行ったコトないお前に、中の人間の気持ちはわかりにくい思うけど、懲役というのは、どれだけ回りに気心の許せる友人や知人がいたとしても、所詮オノレ一人やねん。
社会の窓口がお前だけやったから、毎日届いていた手紙がなくなったり、面会がなくなったりして、正直しんどかったで(笑)
でも気持ちが離れてもうたんは、中にこうしておるオレのせいやなって思ったら、お前を責めるコトはできへんわな。
未練がましいコトは書かへんけど、あれから一年経った今でもまだ狭量のオレは両手叩いて、お前のコトを送り出してやるコトが正直出来そうもない。
でも、お前やチビには幸せであって欲しいといつも思ってる。
男と女ゆうもんはええ時もあったら悪い時もある思う。
オレと付きおうてわかった思うけど、オレはどこまでいってもヤクザでしか生きれん人間や。
そんな人間ゆうのが、世の中にはおる。
お前らの為に別の道をと思った気持ちにウソはないけど、ヤクザをやめれたかゆわれたら、結果的にウソになってたと思う。
だからもし、今度偶然どっかでおうた時に、オレみたいな男連れとったり、不良と一緒になったって耳にしたりしたら、がっかりやで。
いらん世話かもしれんけど、ヤクザも不良ももうやめときや。
懲役も行きよるし、女も泣かしよる。
それがよくも悪くもヤクザや。
カタギの勤め人と一緒になって大事にしてもらわなあかんぞ。
そしてチビらを立派にしてやって欲しい。
もうオレはお前に何もしてやれんけど、またいつか今度は友達として、笑い合うコトが出来たらええなと思う。
チビらのコトはあえて淋しなるから、書かんとくわ。


追伸
ホンマやったら、もっと早くに面会や手紙がないのを見て、オレのほうから別れを切り出さなあかんかったんやけど、それが出来んでお前に嫌な役させてもうた。

ごめんやで。

●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)