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小説「忘れな草」第28話 沖田臥竜

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悟志もマサキもしんちゃんも他の奴らも気合いの入り方が、これまでと違っていた。
でもオレだけは、違う意味で気合いの入り方が違う方向を向いていた。

オレは七夕祭りの会場を目指して、CBXを走らせていた。
前方の沿道に出店が見え始めたあたりから、CBXをスローダウンさせ、片側二車線を使い、右に左にローリングを繰り返した。
オレのローリングが交通渋滞を巻きおこす。沿道からは大勢のにいちゃん、ねえちゃんが飛び出してくる。
オレはアクセルをリズミカルに切り、それにこたえた。
生きている瞬間だった。なんの取りえも、やる気
すらないオレなんかの輝ける場所がそこにあった。

中学を卒業しても進学せず、かといって仕事をする訳でもないシンナー、タバコ、カツアゲ、万引き、暴力三昧の日々。
自他共に認める街のクズが輝いていた。

明日のコトなんてどうにでもなったし、どうでもよい時代だった。
それは刹那的かもしれないけれど、「今」その時がオレの、オレ達のすべての悪るガキ達の、そうすべてだった。
おっさんになって、それぞれの道へと歩いていった仲間達も、あの頃は同じ心境だったと思う。

心地良い優越感に胸を高揚させながら、オレはメ
イン会場を吹かし回った。
夜空へと轟く爆音。この中に樹愛はいるのだろうか。どこかで今のオレを見てくれているのだろうか。見ていて欲しかった。
見てい欲しいと思った。

うわの空でそんなコトを考えていた時、どこからともなくパトカーのサイレンがけたたましく響きわたり、オレの撒き散らす爆音を呑み込んでしまった。

早過ぎた。もうしばらくこの脚光を浴びていたかったのに。
本当だったら、パトカーをまいた後、どっかで一服して何度となくトライアルするのだけど、今日のオレにはそんな時間はない。
今日の最大の目的は、単車で吹かし回るコトではなく、樹愛を捜し出すコトなのだ。
オレは追跡してくるパトカーをうまくまいた後、七夕祭りの会場から少し離れた神社にCBXをかくした。
会場まで少し遠いが、ロケットカウルぶち上げにスーパーロングのファイヤーパターンの出で立ちは、目立ち過ぎて困る。
ここに隠しておいて、歩いて会場にむかい樹愛を捜すコトにした。
遠い向こうからゆるい風に乗って、祭りのざわめきが、ここまで届けられてきた。

このざわめきに今よりガキだった頃は、胸をわくわくさせたものだ。
そのざわめきを一瞬で掻き消すかのように、地響きが響きわたった。

奏でられるアクセルミュージック。割れんばかりの5連ラッカラーチャー。
悟志とマサキに違いない。
二人は七夕祭りに青春のすべてを賭けていた。
現場作業で貯めた金をすべて単車の改造費に注ぎ込み、何日も前から、この日の為に徹夜で単車をつくりあげていた。
そういえば服装も特攻服を着て、チームの旗まであげると騒いでした。
一瞬オレも血が騒ぎもう一周だけ出陣しようかと
思ったけれど、樹愛への想いがなんとかそれを思いとどまらせた。
小刻みに刻まれるアクセルミュージックを聞きながら、会場へと急ごうと小走りで走りかけた時、オレが単車を隠した場所より、もう少し離れた所に同じタイプのCB Xがとまっているのが目に入った。
はて、誰の単車であろうか。
チーム内にCB Xを乗ってる奴は結構いるけれど、どの仕様とも違う。
誰か神社の中にいるのだろうか。
この辺りの族車とは少し改造の違う小綺麗なCBXを一通り眺めた後、少し気になったので、神社の中に入ってみた。

それが樹愛だというコトは、後ろ姿を見ただけですぐにわかった。
樹愛はこちらに背をむけて座り、花火をしていた。
顔は見えていないのに、樹愛がどんな表情で花火を見つめているかが、なぜだかわかった。
オレはこんなにも驚き、心臓だって、バックンバックンしてるというのに、振り返った樹愛の顔には、驚きもそして戸惑いもなかった。
まるで、オレがこうして訪れるコトを予感していたかのような顔に見えた。

「あっ、じっちゃん、まいどっ!」
花火が出す煙りに瞳がしみたのか、ほんの少しだけ涙目になった瞳で、樹愛はほほえんだ。

オレは少し樹愛から離れた石段に腰をおろし、気持ちを落ち着かせる為に、タバコへと火をつけた。

「なんでやねん。なんでなんもゆわんといきなり引越したねんっ」
自分でも今の今まで、気付かなかったけれど、オレはずっとすねていたのだ。
いきなり目の前から消えてしまった樹愛に、腹が立っていたのだ。
ずっと胸に秘めていた想いを打ち明けさせてくれもせず、「失恋」に似た傷跡だけを残して去っていった樹愛に腹が立って仕方なかったのだ。

愛しているなんて意味はまだ知らなかったけれど、こんなにも好きにさせといて、いきなり消えてしまうなんて残酷過ぎるじゃないかっ!そういいたかったのだ。

「だってや、なんかそういうのってアタシ苦手やねん。悲しい話しってアタシ嫌いやからさ。ごめんな、じっちゃん」
オレも嫌いだ。悲しい話しなんかより、楽しい話しの方が好きだ。もしかすれば楽しい話しなんかより、人の不幸の話しの方が好きかも知れないが、ここではそんなコトまったくもって関係ない。
遠くでパトカーのサイレンが鳴り響いていた。

「雑誌みたぞ。なんや豊中でレディースやってんのかっ。あーっ!もしかして、そこのCBX樹愛のかっ⁈」
しゃべりかけている最中に、オレは神社の横にとめてあったCBXを思い出した。
そうかあれは樹愛の単車だったのか。

同じ暴走族でも、男と女ではその主旨も活動内容も同じ暴走族のカテゴリにはめこめれない程違う。
男の場合は何といっても、土曜の夜に改造車で爆音を撒き散らしながら、街中や国道を暴走するのがメインなのに対し、レデイースと呼ばれる女の場合は、400ccもしくは250ccといった単車で暴走するコトはまずない。
たまに男の集団にまじって女が単車を運転する場合ならなくもないが、女だけの単車集団となれば、オレの知っている限り、皆無といってよかろう。

ではレディースはいったい何をしているのかという、あるべき疑問にぶちあたるが、率直に言ってしまうと、何もしていない。
何もしていない訳ではないかもしれないが、何もしていないと変わらないようなコトしかしていない。
せいぜいやってるコトといえば、集会と称し派手な特攻服を着てカラオケボックス等に集まり、男なんかには入り込めないさぶ~い会話をしているか、よくて原チャリでブイブイその辺りを走り回っているかのどちらかであろう。

レディースの方々にきかれたら、バカにしとるのかっ!、と怒られてしまいそうだが、スマン。
バカにしている。て言うかバカそのものと思っている。

そんなレディースと呼ばれるバカが 、失礼。女の子が、あんな小綺麗なCBXを乗っているときけば、これまでの価値観、すべてがひっくり返ってしまうのだけれど、樹愛であれば充分ありえた。

●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)