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小説「忘れな草」第25話

小説「忘れな草」第25話 沖田臥竜

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オレは今まで、別れ際に腹立たしさに任せて、これまで渡したプレゼントをかえせだの、金をかえせだのという奴を男のクズだと思っていた。
オレはどんなコトがあっても、そんな男だけにはなりはしない、と思っていた。
だけど、どうだ。いざ自分自身がそういう局面に立たされてしまうと、そんな最低な男に成り下がろうとしているオレがいる
それがどれだけ男を下げる行為であるかと、充分理解している上で、言わなければ気がすまない、気持ちがあった。
現にそういう手紙を呪詛と共に認めていたし、その手紙を今の今まで、明日発信してやろうと思っていた。
今日、面会も手紙もなければ、奴に引導を叩きつけてやる気マンマンだった。
たとえ、その後、後悔するとわかっていてもだ
だけど結局、思い留まってしまった。
それは今日、同僚の吉岡氏の顔をみてしまったからだ。

氏とオレの現在の立場はよく似ており、氏とはよく運動時間を利用して「会合」と称した傷のナメあいをしている間柄だ。
吉岡氏はオレよりも早く決断してしまい、三週間ほど前だったか、嫁はんへと向かって、どないするかはっきりしたらんかいっ!なる一文を男らしく叩きつけてしまった。

その返事が昨日届けられた訳だ。
内容は聞かずとも、氏のみるも無惨な顔を一目みればどういうものだったか、と言い当てるコトができた。

はっきりとされてしまったのであろう。

べっとりとくまをはりつけた顔には、三週間前の男らしさなど、どこにもなく、こんなふうに書かれてあった。

ーはやまるで、なかった...ー
と。

オレは氏のその姿を、目の当たりにさせられ、とてもじゃないが、撃沈覚悟で玉砕する気など到底消え失せてしまい、正直、次は我が身だとそら恐ろしくなってしまった。

憎しみながらも、恨みながらも奴やチビ達はオレの心の支えになっている。
この先、正直言ってしまえば、もう社会で一緒に暮らす未来は描けないし、いずれは別れなければいけない日がやってくるのも実は覚悟している。

だけど今、自分の手でそれらを失うコトだけはしたくなかった。
できるコトならば、ギュッと目をつぶり、気付かぬフリをしてやり過ごしてしまいたかった。
情けない。男らしさなどどこにもない。
だけどそれが正直な気持ちだった。
奴への不幸の手紙はまだ出せそうもない。

なぜならばオレにとっての不幸の手紙になってしまうからだ。
今日も寝苦しい夜になりそうだ。
ひこ星とおり姫の破局でも天の川に願ってやるとするか...。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)