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ー塀の中への手紙ー

年末スペシャル一挙2話配信! 小説『忘れな草』第45話

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ー塀の中への手紙ー

平成20年12月1日


今日はとてもささくれ立つような嫌なコトがあった。
何かといえば、先日、母に宛てた便りの返信が今日届いたのだが、まあ、その手厳しいコト。
夕食もそこそこに、急いで届いた便りに目を走らせれば、母のクセのある筆圧の強い文字で、こういうコトが書れてあった。


ー手紙読みました。ゆまちゃんとのコトは知っています。
あんたも辛いでしょうが、あの子に3人の子供さんもいてるのです。
今のあんたに3人の子供を育てていくコトができますか。
できないでしょう。
忘れてあげなさい。忘れてあげるコトが一番です。

あんたも色々あるのはわかりますが、だからと言って、私に頼られても困ります。
私はもうあんたの母親をやめました。
あんたから手紙がきているコトを知られるだけで、姉ちゃんに怒られます。
姉ちゃんはお父さんが死んでから一ヶ月に4、5回は様子を見に来てくれます。
もう来なくていいと言ってるのに来てくれます。
だから手紙はいりません。
迷惑です。

あんたも男でしょう。
そこにいてるのは、誰のせいでもなく自分のせいでしょう。
自分で責任とりなさい。
自分で責任をとってかえってきなさい。
ちゃんと仕事して真面目になったら、お父さんの仏壇に線香をあげに来なさい。
それまでは連絡してこないで下さい。
色々あるでしょうが頑張りなさい。

2万円送ります。
洗濯機の調子が悪くて買い替えようとおいていたお金です。
寒くなるのでメリヤスでも買いなさい。
私のコトは心配いりません。
ええカッコせず、自分のコトだけ考えて、風邪を引かないように気をつけなさいー

女に捨てられ、親に勘当され、自業自得の成れの果てとはいえ、次から次に嫌なコトが転がりこんでくるもんだ。
それにひきかえ、同室の吉岡氏は今日もみどりちゃんから、便りが届き、ホクホク顔。羨ましいなり。

オレは本当にどうなってしまうのだろうか。
なんだか死んでもいいような気分 、というよりも、すでにこの世から、抹消されてしまったような心境だ。
情けねえよな。
あいのすけは大きくなったのだろうか。りゅうのすけはあいのすけとケンカしていないだろうか。
とらのすけは細やかで傷つきやすい子だから、心配だ。
もうチビ達の名を声に出して、呼ぶコトもなくなってしまった。
何が淋しいって、これほど淋しいコトはない。

いつの日か、本当にいつの日か、今日という日を笑って思い出せる日が来るのだろうか。

苦しい時、辛い時、いつだってその時が、過去のどんな不遇よりも苦しくて辛く思うのはなぜだろうか。

明日は今日よりましな一日になってくれているのだろうか...。

●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)