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ー宵越し金どころか人の金しか持たないー

「尼崎の一番星たち」出版記念!文政プレイバック ⑲

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ー宵越し金どころか人の金しか持たないー

宵越しの金は持たない、という言葉があるが、文政の場合は「人の金しか持たない」という格言があったりしてしまう。
人様にとっては迷惑極まりない話であるのだが、彼の場合、致し方ないのである。
なぜならば、人生で一度たりとも働いた経験がないのだ。
塀の中にあっても、ほとんど作業すらせぬ御仁であるのだぞ。シャバで仕事なんてするわけがなかろうなのである。


なのに、たった一日のアルバイトすらしたことのない文政が、何故いつも金を持っているのか。
突き詰めていくと、人様のお金。主にまっちゃんの運ぶ金があるからなのだが、だからなのか彼は非常にキップがよい。美しいほど大金を平然と切れる。
博打なんぞでも、「うそぉ~ん!!!」と盆がひっくり返るくらいの額を20代の頃から張り続けてきた。
だから、文政は、あくせく仕事をしている世の人々のことを本心から「変わっとんど、自分ら!」と思っている節がある。
「あんたが変わっとんねん! というか、おかしいねん!」と凡人たちは叫ぶが、そんな雀のさえずり程度の声では、彼の耳に届かない。


彼にとって仕事とは、たとえば誰かを襲撃するとか、危害を加えに行くとか、車特攻をかますとかの、何かを破壊することをおもに指し、そこのところも一般人とは決して噛み合わない。
強いていえば、一度だけ「BM(ぶんまさ)」というクラブをオープンさせたことがあるらしいのだが、一週間持たずに文政ファミリーの待機場所になっていたという。


ただ、この症状?は、何も彼だけが持っているものではなかったりしてしまう。文政ファミリーの主だった猛者たちはすべて、この症状に侵されている。
たとえば、ステゴロキングバッテツに職業を尋ねれば、「あのねあのね、恐喝が仕事やねん」と言うであろうし、ストリートファイターKなら、「アイゴ~! またシナモン値崩れしとるやんケっ!!!」と関わり合いにならないほうが良さそうな言葉が次から次に出てくるはずだ。
まっちゃんなどは、「まさくん、仕事中は電話かけんといてってゆうてるやん!」と言いながら車上荒らしに励んでいるはずで、実兄の弘吉さんなら「ギャングには行かへんて~!」と拒むはずである。
職業を聞いただけなのにである。


症状とすれば全員末期であるが、彼らたちからすれば、仕事とはそういうものなのである。
要するに額に汗してするようなものではないのだ。


「何っ!汗をかく?そんなもん夏の懲役だけで充分じゃ!なんでシャバに出てまで汗かかんといかんねん!」
流石の文政も塀の中では汗をかくらしい。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)