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ー歩く情報機関、赤シャツー

「尼崎の一番星たち」出版記念!文政プレイバック ⑱

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ー歩く情報機関、赤シャツー

 文政ファミリーを語るに、決して忘れてはいけない人物がもう一人いる。
名前は赤シャツ。その貢献度でいえば、車上荒らしのスペシャリストまっちゃんにもひけをとらないのではないか、と囁かれている男である。
もちろん、まっちゃんとは管轄が違う。まっちゃんが財務大臣なら、赤シャツは公安委員長といったところか。


見た目は、ずんぐりむっくりで黒ぶちメガネ。ねっちょりとした黒髪は、七三に分けられており、緑色のリュックサックを常に背負っている。
どこから見てもオタクにしか見えない赤シャツなのだが、彼が持つ情報網は決して侮ることができない。関西で起こる事件現場には、いつもなぜか赤シャツが一番先に到着しており、事件の概要を週刊誌の記者以上に把握している。
大手新聞社ですら、情報収集する際には赤シャツに連絡を取る、と言われているほどだ。
そのため、各紙の入稿日なども無駄に把握しており、ときおりリップサービスなんかをしたりしている。


緑色のリュックサックの中には、びっしりとノートが詰め込まれており、関西の裏社会の住人たちからは、「あのリュックは、ゼニでは買えん」と言われているほどだ。
ただ、難点があるとするなら、ビジュアルはモチロンなのだが、口が軽いというところなのである。
情報屋にとってこれほど致命傷なことはないのだが、根がお喋りなのだからしかたあるまい。


もともと、赤シャツは文政ファミリーに入るまでは、フリーの情報屋をやっていた。
その頃から口が災いして、ガラをシャクられる(拉致される)こと数知れず、一度は喋り過ぎてしまい、この世から抹消──つまり殺されかけている。
その命の瀬戸際で、赤シャツは文政にSOSの電話をかけている。
文政にしては珍しく、この時すぐに電話に出たから良かったものの、もしも出ていなかったら、間違いなく赤シャツの命はなかっただろう。
それ以降、赤シャツは文政のことをご主人様と崇め奉っているのだが、ことあるごとについつい喋り過ぎてしまい、「おどれこらっ!」と文政を沸騰させてしまっている。


だが、彼は彼なりに深く感謝しているようで、命の恩人である文政のことを裏切るような真似だけはしない。
それを文政も理解しているようで、怒りながらも、赤シャツをファミリーから追放しようとはしない。
実際、文政と揉めごとはワンセットになっているので、その時に赤シャツの暗躍がどれだけ役に立っているか。
赤シャツにとって、文政のターゲットになった者の所在を突き止めるくらい、赤子の手を捻るくらいたやすいことなのである。
あの球界の大スターが覚醒剤で逮捕された時も、赤シャツは全て全貌を把握しており、自慢気に私にそれを教えてくれた。
それらの情報の詳細は、肌身離さず背負っているリュックサックにすべて詰め込まれているのだが、その中身だけは、誰一人として見た者はいない。
たった一人を除いてなのだが......。
その一人とは、もちろん文政である。


「兄弟、あいつ怖いど! N(超有名グループアイドル)の全員の住所から電話番号、その日起きた時間までびっしり書かれてあったど!」
と半分喜びながら、私に電話してきたのだが、どうせ力づくでリュックサックを奪い、無理矢理、中身を覗いたのであろう。
しかも、それ以上にひっくりかえるような情報も記してあったらしいのだが、「兄弟は、知らんほうがええ」と言って、とうとう教えてもらえなかった。
 
赤シャツの存在がある限り、どのような組織が文政ファミリーとぶつかっても、破ることはできないであろう。


ま、赤シャツが仮にいなくとも、文政ファミリーの三羽ガラス。ステゴロキング・バッテツ、ストリートファイターK、狂犬N。
この3人を倒すことがそもそも不可能なのだが......。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)