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〜兄弟の絆〜

「尼崎の一番星たち」出版記念!文政プレイバック ⑯

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〜兄弟の絆〜


基本「文政」に「御法度事項」は存在しない。
生野という街に生まれ、生野という街に育った彼は根っからの「なんでもあり」なのである。


韓国の血がそうさせているのか、実の兄弟の絆は何より強い。
彼には、2人の兄と妹が一人いるのだが、一番上の兄は若くしてこの世を去っている。
その影響もあってか、すぐ上の兄との絆は特に強く実の兄弟でありながら兄弟分の契りも交わしており、互いを「兄弟」と呼びあっている。
ちなみに、妹は物凄く兄想いの優しい子で、兄弟の中で唯一普通の暮らしを送っている。
そんな妹には、「文政」も非常に優しく接しているけれど、妹の旦那には、妹に内緒でよくバクチの金を無心している。普通の者がそんな事をすれば、ろくでなしっ!となるところだが、彼の場合は微笑ましいエピソードとなってしまうのは、生き様ゆえであろう。


兄の名は、「弘吉さん」。武の面で、170㎝にして95キロという鍛え上げた体躯の「文政」の影に隠れてはいるが、細身である骨太の「弘吉さん」の名も大阪不良界ではブランドとなっており、現在は鹿児島刑務所(当時)で悠々自適?な日々を送っている。


この2人が社会から姿を消すと、大阪の犯罪が減るというのは、大阪裏社会や警察ではあまりにも有名な話である。
 
今から話すエピソードは、そんな2人のある時の逮捕劇である。
語りべとなってくれるのは、もちろん「文政」である。


「兄弟、ヘリコプターに追われた事ないやろっ?あれからは、逃げられへんどっ!
 近づいてきたらごっつい音しよんねん。ジライヤいうんかな」
それを言うなら地響きである。
「パトカーと覆面に追われとったら、あちゅう間に緊急配備かけられてな、巻いた思っても絶対ついてきよんねん。弘吉と『おかしいなおかしいな』ゆうとったら、上空にヘリコプター舞っとるがな。逃げられるかいな。」
二人の乗る車は次第に追い詰められていき、私の地元。尼崎港に辿りついた。
「そこで結局、車乗り捨ててな、弘吉と工場の影に隠れとったんや。
 ほなら、そこに轟音と砂ぼこり巻き上げてヘリコプターが着陸や。
兄弟にも、あれは見せたりたかったのっ。まるで映画の世界やど!」
全くもってみたくない。
「それ見ながら、あぁ終わったのっ、なんて思てると『マサ逃げえ!』ゆうて弘吉が飛び出して行きよって囮なりよってん。
もちろんワシ逃げたがな。走って走って走りまくって逃げきったがな。
ワシだけちゃうか、ヘリコプターから逃げきったのっ。
ま、すぐまた事件打って、きっちりパクられてもうたけどなの」
と彼は豪快に笑い飛ばした。
 
これが文政20歳そこそこで、初犯の時の話である。
道に逸れるのでも、彼くらいダイナミックに逸れれば、人は認めてくれる。
彼は何事に置いても、後悔をしていないと思う。
後悔するくらいなら、裏街道は歩きはしないと思っているかもしれない。
それくらいの覚悟があるからこそ、ビックネームになるのであろう。


躊躇なく弟のために囮となる兄。それを受けて迷いなく逃げる弟。兄弟だからこそなせる技ではなかろうか。
だって、普通なら因縁引きずる兄弟ゲンカになっていてもおかしくないではないか。
愛すべき男たちである。

●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)