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〜塚口のすぎちゃん〜

生野が生んだスーパースター文政 番外編

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生野が生んだスーパースター文政外伝!


〜塚口のすぎちゃん〜


すぎちゃんの脳内な17歳で止まってしまっている。
私の四つ上なので46歳になるのだが、未だ青春真っ只中なのである。
私の地元、塚口で不良をやっていて、すぎちゃんを知らない者はいない。
中学生にまで、「おいっ!すぎちゃんやんけっ!何してんねん!」と言われるくらいは有名だ。


すぎちゃんのヤンキー歴はシンナー歴に比例しており、すぎちゃんは46歳になった現在でもビニール袋を手放さない。誰もが18歳になれば、シンナーはダサいとなったり、シンナーより100倍シャブの方が良いとスライドしていく中で、すぎちゃんだけは浮気せずに脳みそを溶かし続けた。
そんなすぎちゃんはもちろん無職で実家暮らしである。
人生の落第者なのであるが、すぎちゃんに劣等感など微塵もなく、引きこもってる訳でもない。
たまに、タバコなどを万引きして失笑を買ったりして、自己のアピールに余念がなかったりする。


すぎちゃんの最大のイベントは、夏の終わりに開催されていた地元のお祭り。「ふるさと祭り」であった。
塚口では、一番のフェスティバルである。
すぎちゃんは、そのお祭りに必ずやってくる。
そして入り口でうんこ座りをし、ラジカセから懐かしいBGMをガンガン鳴らしながら、辺りにメンチをきっているのだ。
そんなすぎちゃん見たさに、私は毎年、ふるさと祭りだけは行くようにしていたのだが、2年前から、ふるさと祭りは残念なことに閉鎖してしまったのである。
小学校のころから、小さな胸をわくわくさせていた祭りの灯が消えてしまったのには、一抹の寂しを覚えてしまうが、すぎちゃんのうんこ座りを見れないのはもっと寂しい。


寂しさに耐えきれず、すぎちゃんの実家を訪ねた、すぎちゃんよりも先輩の者好きもいたのだが、すぎちゃんは相変わらずであったらしい。


鳴らされたインタフォンに「誰や!」と勢いよく玄関を開けたすぎちゃんは、者好きを見た瞬間に敬意を払った。
「先輩チワース!」
つるっとハゲてしまった頭を下げ、家の中を振り返りこう叫んだ。
「おいっ!ばばあ、先輩がきとんねん!挨拶せんかいっ!」
母親にである。17歳で脳内時計が止まってしまっているすぎちゃんは、反抗期からも卒業出来ていないらしい。
反抗期に殿堂入りという制度があれば、すぎちゃんはとうの昔に殿堂入りを果たしていた事であろう。


後日、行くでなかった、と漏らした者好きの話しによれば、招かれて入ったすぎちゃんの部屋には、今もなお特攻服が神棚の様に飾られており、至るところに色褪せた写真が貼られいたという。
すぎちゃんの脳内同様、この部屋もまた時が止まってしまっているのだ。
この空間ですぎちゃんは、どれだけのシンナーを吸引し、幻覚を見続けてきたのであろうか。


すぎちゃん、、、。
あれほど、うんこ座りとメンチが似合う人物は、そうはいまい。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)