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〜塀の中のミリオン〜

生野が生んだスーパースター文政 番外編

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生野が生んだスーパースター文政 番外編


〜塀の中のミリオン〜

関西の裏社会に巣食うアウトローは、口を揃えてこう話す。
「関西で名を売り出したかったら、西成で有名なるのが一番早い」
と。
日本で唯一暴動が起きた街、西成。その西成で名を馳せるには、綺麗だけではいけない。男気だけでも登れやしない。暴力。そう他者を寄せ付けない圧倒的な暴力が必要だった。そうしてスターダムを駆け上がっていった者も決して少なくはない。
だがその男が、名を上げるのに、選んだ戦場は西成ではなかった。もっと言えばシャバでもなかった。
なんと魑魅魍魎が跋扈する塀の中だったのだ。
それも、刑務官に対する反骨心だけを武器にして。


初めの頃は、ただの事件送致に過ぎなかった。周囲もそう理解していた。刑務官に対する暴行で刑を増やす懲役など掃いて捨てるほど存在する。
それくらいのレベルなら、シャバどころか塀の中ですら有名にはなれない。だが男はそれだけでメジャー入りしてしまったのだ。


「ちょっとみなさん!今からうるさしまっせ〜!」
そう叫ぶと、独自で作詞作曲した歌を口ずさみながら、独居房に備え付けれている小机で、ガチャンガチャンと窓ガラスを叩き割り始めてしまうのだ。
そして駆け付けた警備隊と大立ち回りを繰り広げて見せた。
それを繰り返していく内に、いつしか「ちょっとみなさんーっ!」と男が叫び始めると、どの受刑者も「○○音頭が始まった、始まった」と言いながら、食器口に耳を傾けるようになっていったのだった。
そうした中で極め付けとなったのが、僅かな刑期を人を殺したくらいの量刑まで跳ね上がらせてしまったことだろう。


取り調べに出れば、取り調べ官に○○音頭を歌って暴れ出し、法廷で検事が「粗暴で更生の見込み乏しく、、、」と言おうものなら○○音頭で踊りかかった。
数々の公務執行妨害で臨んだ判決では、裁判官から肝心の主文前に、優しくこう注意されている。
「今日は暴れないようにね」
裁判官も人間である。判決を言い渡して、○○音頭を歌われてはかなわないと思ったのだろうか。
それを察したかどうかは分からないが、男もこの時「うんっ」と素直に従っている。


それ以降、彼は○○音頭を歌っていないと言う。
どういう心境の変化があったのか。まさか裁判官の保身の情にほだされたということはあるまい。多分この分だと一生シャバに出ることが出来ない、と遅まきながら気がついてしまったのではないだろうか。


○○音頭で一世風靡した男は現在、日本一しまっていた(厳しかった)と言われている刑務所で、穏やかな歳月を送っている。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)