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〜いわくつき高級車〜

「尼崎の一番星たち」出版記念!文政プレイバック⑩

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〜いわくつき高級車〜

まっちゃんにセキュリティーは通用しない。
一説には、中国人が開発に成功したと言う魔法のキーを手にしているのではないか、と囁かれているほどだ。
その魔法のキーにかかれば破れないセキュリティーはなく、どんな高精度センサーすら感知させずに車のドアを開け放つという。
さらに怖ろしいことに、まっちゃんはどんな車でもその鍵一本で開けてしまう。それも鍵穴を一切壊さずに。
古典的なハサミやハリガネ、プラスドライバーといったツールとは一切無縁なのである。
果たして、まっちゃん。この魔法をどこで手に入れたのか。
スペシャリストの冠は伊達ではない。スペシャリストの車上荒しというところが若干いただけないが、それでも、その世界ではスペシャリストの称号をほしいままにしている男である。


そんなまっちゃんが、過去にとんでもない当たりを引いてしまったことがある。
 
それは、彼が地方に遠征──といっても、ただたんに遠くまで車上荒しをしに行っただけなのだが──していた時の話だった。


そこで、まっちゃんは、ひっくりかえるほどの超高級スポーツカーを発見してしまったのだ。
まっちゃんは周囲に鋭い眼光を放ちながら様子をうかがい、スポーツカーに近づいていく。
わけなくスポーツカーのセキュリティが解放される。いつも通りの好タイムである。
まっちゃんは、七つ道具の一つである絶対指紋のつかない手袋をはめ、車内の物色を始めた。
物色開始後わずか一分で、スポーツカーの持ち主の免許証を発見。
 
本来であれば公文書の偽造関係はストーリーファイターKの得意分野なので、なにも考えずに七つ道具の一つであるズタ袋に放り込んで持ち帰るだけなのだが、この日は違った。
発見した免許証を凝視したまま、まっちゃんは固まってしまったのだ。
コンマ2秒で硬直の解けたまっちゃんが、おもむろに口を開く。


「〇〇やん。これ、〇〇の車やん......」
 スポーツカーの持ち主は、誰もが知る超有名人だったのである。


驚くのも束の間、更に事態は思いもよらなかった展開に発展して行く。
ダッシュボートを開けると、中からはアラ不思議。パケに入った白い粉が見つかったではないか。
さらに、後の捜索?で、注射器2本とオトナのオモチャまで発見されたのである。
まっちゃんは、それらすべてを携帯のカメラで写真に収め、不敵に微笑むのだった。
 
10分後。文政の携帯が鳴った。相手はもちろん、まっちゃんである。


「なんどい!」
 怒鳴りつけるように電話に出た文政に、まっちゃんは興奮した口調で事の顛末を話し始めた。


「まさくんっ! 大当たりやで! 〇〇おるやろ、超有名人の! アイツの車当てたんやけど、車の中から、なんとシャ──」
「こぅら、まつ! 超有名人て誰のことや! ワシより有名なヤツが他にいとんのかいっ!」
まっちゃんの話を遮り、文政がまっちゃんをカマしあげだ。
「ちゃうねんて。そんなんどうでもええねんて。まさくん、話最後まで聞いてて。〇〇の車の中から、大人のオモチャとかシナモンが出てきてんて!」
「それがどないしたんどい。オドレは芸能レポーターか。オドレは車上荒しだけに精だしとったらええんじゃい! それより、ワシがオドレに聞いとんのは、ワシより有名なヤツいとんかい!って聞いとんじゃい!」
どうやら、まっちゃんの"超有名"という言葉が文政の気に障ってしまったらしい。


「そんなんどうでもええやん。よう考えてや、これでコイツ強請って──」
「何がどうでもええんじゃい! ワシより有名なヤツおるんかいって聞いとるんじゃ。オドレ、これでもう3回目やど!」


これはいけない。同じ話を文政に3回言わしてはいけないという文政ルールを破ってしまったまっちゃんは散々怒鳴られた挙句、バキーンという音とともに、電話を切られてしまった。


多分文政は、携帯電話を地面に叩きつけて破壊してしまったのであろう。バキーンの音がその事を物語っている。これはすなわち、物資調達係であるまっちゃんの仕事がまた一つ増えてしまったことを意味している。


だが、今日のまっちゃんはこの程度でめげたりはしなかった。これが世に出れば大スクープである。車上荒しなんてしている場合ではなかった。


それから数日間は本業である車上荒しを休業し、ストーリーファイターKと2人でこそこそ動いていたらしい。
そして、ある日を境に、2人の身なりが見事に変わり、すこぶる良い羽振りになったというのだ。
車上荒しを休業させているというのに、だ。
 
当然のように、文政は、また新しい車を購入していた。


どこかで何かが起こり、暗闇へと消えていったのであろう。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)。