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菱カーテンの向こう側~追憶の猛者たち~後編

菱のカーテンの向こう側 ~追憶の猛者たち~後篇

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菱のカーテンの向こう側

~追憶の菱の猛者たち~ (後編)
文/R-ZONE編集部


「他に現在、豪友会の加藤会長も徳島刑務所での人気は抜群でした。当時はまだ、豪友会内坂井組の幹部だったと思うのですが、加藤会長と接する懲役は、皆、居住まいを正し、自然と加藤会長に敬意を払うようになっていきました。
 私なんかも、同じ工場で生活させて頂いた事があるのですが、とにかく寡黙で読書家。加藤会長を見ながら、ああ、こういう方が親分になられるんだろうな、とその立ち振る舞いに感じ入っていました。
 ですから、伝統ある豪友会の六代目に就任されたと聞かされた時は、やっぱりな、と思いましたもの」(A氏)


 豪友会とは、言わずと知れた四代目山口組で若頭を務め、非業の死を遂げた中山勝正会長を初代とする屈強の組織である。この時の加藤会長の務めも、他組織との抗争で身体を賭け、見事に勲章を挙げての服役であったという。


 さらにA氏の話は続く。
「健竜会の中田の会長も、徳島刑務所では知られた存在でした。刑務所の中には中田の会長を慕う懲役がたくさんおり、その縁で、出所後に中田の会長の元で大幹部へと駆け上がった人もおられると聞いています。
 また、今回の分裂後、自らの身体で潔くけじめをつけられた河内組長も、一つの工場を取り仕切られていました。海千山千の猛者揃いの中で一つの工場をまとめあげることが、どれだけ大変なことか......。外でお会い出来る機会はありませんでしたが、刑務所ではとてもよくしていただいていただけに、訃報を知らされた時は残念でなりませんでした。当時の肩書きは、倉本組内三誠会若頭だったと思います」


 河内元組長は、出身団体である三誠会事務所で自らの命を絶っている。河内元組長の死は、今回の分裂騒動が生み出した最大の悲劇と言えるのではないだろうか。


「倉本組で代々最高幹部を務め、河内組長体制時に引退されたのが木崎氏で、この時の務めは、たしか不義理した若い衆へのヤキを入れた末の事件だったと思います。当時から、若い衆の躾けに厳しい方で知らされており、以前こんな話を聞いたことがありました。
ある不義理をした若い衆がそのヤキを怖れ、警察署に逃げ込んだらしいんです。そうすると、弁護士を送り込み、無理矢理、保釈で外へと出し、警察署の前でそのままガラをしゃくり(さらい)、カタワにした、という有名なエピソードがある方です。
 とにかく、この方は将棋が強かった。長期刑務所というのは、一般の八年以下の刑務所とは違い、誰もが果てしもない年数の懲役を抱えて務めています。
その受刑生活中に将棋や囲碁などに凝り出すと、娯楽が乏しい分、相当な腕前になって行くんです。そういう上級者が多くいる中にあっても、木崎氏の将棋の腕は相当なものがありました。確か将棋大会でも優勝されたんじゃなかったかな」


 現在よりも、もっと娯楽が制限されていた時代である。手慰みで始めた将棋や囲碁、川柳なども、凝り始めると相当な腕前になるという。


「それから、今は違うかもしれませんが、昔は、刑務所の中で殺ると増刑になったとしても、外で殺るより安い(=刑期が短い)という認識があったんです。特に長期刑務所にはその感覚が強かった傾向があったと思います。いまさら一五年の懲役が一八年に増えたところで、どうってことないという感じ、といえばいいのでしょうか。
 そうそう、こういうこともありました。
 ある時、井上の親分の関係者の人が他の懲役に手をかけられたんですよ。
古川の叔父さんの時同様、すぐに伝令が下り、運悪く、その懲役が当時、井上の親分の舎弟だった方の工場に配役してしまったんです。今はヤクザ社会から足を洗われたと聞いていますが、その方も大きい抗争で山口組のために身体を賭けられた方です。
速攻に小机で半殺しですよ。警備隊が駆けつけるのがあと少し遅れていれば、どうなっていたかわかりませんでした。
 その時は幸いにも一命は取り留めたために、その方の増刑も一年半で済んだのではなかったかと記憶しています」


 一○数年という気の遠くなるような歳月の道中にあったとしても、思い焦がれるのは、一日も早い社会復帰ではないだろうか。
そんな中にあっても、投げやりになることも身を持ち崩すこともなく、ヤクザとして粛々と生きている男たちがいる。人はそれを極道と呼ぶのかもしれない。


 今回の取材に応えてくれたこの方も、冒頭でも触れたように、某有名組織の若頭を務めた方である。取材に対しても、「もし記憶違いなら、申し訳ありません」と言われていたことを最後に添えさせていただきたい。
(初出2016.02.08)


(文・RーZONE編集部)
現在発売中「菱のカーテンの向こう側」(サイゾー)に収録。