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運転手!捕獲終了‼

『尼崎の一番星たち』出版記念!文政プレイバック②

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 少しでも気に触れば牙を剥き出しにする狂犬N文政は幼き頃からの同級生であるが、ステゴロキング・バッテツと肩を並べる実力者、ストーリーファイターKもまた小学校からの幼馴染みである。

 2人の違いは、Nの場合、文政に対してだけは牙を向かないのに対し、Kの場合は、あまりにも文政の理不尽な立ち振る舞いが過ぎると愚痴?をこぼす。

「アイゴ~! マサっ! ええ加減にさらさんかい」と。

 それでええ加減にさらせれば多分、文政の名はここまで世に響きわたっていなかったであろうが、「なんじゃい、こらっハナクソ! かんで捨てたろかいっ!」と自分に非があっても逆にブチギレてしまう。そうするとKは、「アイゴチェケタ(ビックリした)、もうええっ」とプイっと横を向き、帰って行ってしまうのである。

 この光景はしょっちゅうである。そして、数日後には気が収まったのか、何事もなかったかのようにKは、文政とサイコロを転がしている。

 本気でケンカすればKは強い。政治力にも長けているし、男の雰囲気だって持っている。トップに立ってもおかしくない器量を充分持ち合わせている男だ。だが、小学校の時から、「番長は誰か?」と聞かれれば、文政なのである。

 文政には、持って生まれた豪快さと人間的魅力が備わっており、腕っぷしや肩書きでは到底、文政を動かすことは不可能なのである

 そんな、文政とKが一度、銭湯で鉄パイプと金属バットで武装した現役の不良8人に囲まれたことがあった。

 正確に言うと、その時もう1人、文政ら側に車上荒らしのスペシャリストまっちゃんもいたらしいのだが、彼は8人の武装した不良軍団を見た瞬間に他人を装い、洗い場に入ったかと思うと、ザブンッと湯船に沈み、潜水艦のように浮かびあがって来なかったという。彼は、セキュリティーの解読にはずば抜けた能力を発揮するのだが、武力に対してはからっきしなのである。

 さあて、囲まれてしまった文政とK。始めに口を開いたのはKであった。

「アイゴ~! だからマサと一緒におるの嫌やねん。で、なんやお前ら、そのバットで野球しにきたんかえ、おうっコラ!」

 いや、野球はしないだろう。不良軍団のリーダー格、震災ガリが吠えた。

「野球させたいんかいっ! ほならっオドレの頭フルスイグしたろかいっ!」

 その瞬間であった。震災ガリのアゴがこっぱみじんに砕けたのは。震災ガリのアゴを、文政の右アッパーが見事にとらえたのである。野球に例えるならば「デッドボール!」と言ったところだろうか。

「こらっ! ハナクソ! 何をよそ見しとんねん!」

 文政の指摘通りである。彼に対戦を挑んできておいてよそ見はいけない。これが、刑務所ならば、「脇見」という違反で刑務官に摘まれているところだ。

 後日談であるが、震災ガリはこの時の衝撃を、こう表現している。「岩石がブチ当たってきたか思た......」と。

 震災ガリが崩れ落ちたのを見て、不良軍団の中の1人の命知らずが文政に詰め寄った。そして、何さらしとんじゃ!と、叫ぼうとしたようだった。だが実際は「何さらしとん......」まで叫んだところで、後方へと吹き飛んだ。Kのパンチが炸裂したからである。

 命知らずなのは認める。だが、Kを前にしてよそ見するのも、もちろんNGであった。

 その間、文政は手を休めることなく、いつの間にか不良軍団から奪いとった鉄パイプで震災ガリをメッタメタに痛めつけていた。その光景に不良軍団以下6名、すっかり戦意喪失してしまっていたのであった。

 文政は飽きるまで鉄パイプを震災ガリに浴びせると、今度は鉄パイプを握りしめたまま「まぁーつぅー!」と怒鳴りながら、洗い場へと入って行ってしまった。まっちゃんにお仕置きをするためである

「おいおい兄弟! もう終わりかえっ! 汗かいてへんがな!」と、文政の背を追いかけるK。不良軍団から戦意喪失部隊に降格してしまった以下6名は、ただただ2人の背中を見送ることしかできなかったのだった。

 元不良軍団の彼らも、もう少し勇気と知恵を使って一斉に飛びかかっていけてたら、戦況ももしかしたら多少は変わっていたかもしれない。けれどその場合、後日に文政やKだけでなく、狂犬Nと、「あのね、あのね、自分ら死んだで」と丸太のような腕を振り回しながら襲いかかるバッテツがもれなくついてくるのは必然であるのだが。

 全治三ヶ月の重傷を負わされた震災ガリであったが、この時の度胸を文政に買われ、退院後は文政の運転手へと抜擢?されたという。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)。