>  > 新連載!『忘れな草』第8話
「忘れな草」第8話

新連載!『忘れな草』第8話

この記事のキーワード:
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「忘れな草」第8話


昼休みー。単車の直カンコールが、昼食に賑わう校内に響きわたった。
「うおおおっっっボーヤンやっっっー!!!」
正真正銘のヤンキーから2軍3軍と呼ばれる予備軍まで、その暴ヤンみたさに、各々の教室の窓へと身を乗り出した。
こうやって神出鬼没的に単車で吹かしにやってくる暴ヤンの大半が、オレ達の通う中学校の「OB」で、オレも中学を卒業すると、しっかりその伝統を受け継ぎ、神出鬼没的に「出没」したものだ。
2周、3周と塀の外の外周を吹かしたおし、にわかギャラリーとかした生徒達の心をたっぷりと高揚させると、一台の族車が正門の前に停車した。
その族車のケツからひょいと飛び降りたのが、他でもない樹愛だった。

そんな「サプライズ」を、常に与え続けてくれる樹愛に、オレ達同級生はおろか、二年生も三年生も、はては教師達にいたるまで、誰も樹愛に近づくコトはなかったし、できなかった。
当の樹愛といえば、そんなコトどこ吹く風で、いっこうに気にする素振りを見せるコトなく、気まぐれが起これば、ふらっと学校へとあらわれた。
そして自分の指定席である教室の一番後ろの窓際の席に座り、開け放たれた窓から、いつもつまらなそうにグランドを眺めているのが常だった。

シブすぎやしないか。オレといえば、休み時間のたびに何か用事のあるフリをして、そんな樹愛を遠くから眺めに行くだけだった。
そして指定席から樹愛の姿が消えてしまっていれば、がっかりしてトボトボと、自分のクラスへと帰って行くのが日々のお勤め?だった。

手を握るコトも目線をからませるコトもない。だけどその頃のオレは、樹愛を遠くから眺めれるだけで満たされていた。
「変態」「ストーカー」「気持ち悪いねん」等と言わず「純情」と呼んでやって欲しい。
オレの片側一車線の片思いは、こうしてまったく陽の目を見るコトなく、暗闇?の中ですくすくと育っていった。
そしてオレも樹愛も二年生になった。

樹愛にどんな心の変化があったのか、本人にしかわからない。
いや、彼女自身にも思春期の心がわりを上手く表現するのは、困難かもしれない。
とにかく樹愛はかわった。
見た目は何ひとつかわらない、アウトローだったけれど、よく笑うようになった。
まったくいなかった同級生の友達もでき、誰とでも気軽に話しをするようになった。

せいぜい週に一度だった登校が、週に三日、四日と増えていった。
傍目にもそんな樹愛は楽しそうに見え、楽しそうな樹愛を見てオレも一人で嬉しかった。
何もかわったのは、樹愛だけではない。
樹愛の鮮烈的なデビューに比べれば、かなりインパクトに欠けたが、オレも教師や親の目をくすめながら、「ヤンキー」の道へとデビューしていった。

あれは確か後三週間で夏休みとせまった、七月始めだったと思う。
暑かった。とにかく暑い日だった。
オレはそんな中を音楽室へと向かう為にタテブエをぶんぶんっ振り回しながら歩いていた。
渡り廊下にさしかかった時だった。
気付いたのはオレのほうが早かった。
前方からこちらに向かって歩いて来ている樹愛に気がついたオレは、乱暴に振り回していたタテブエを、一瞬落っことしかけた。
慌てふためく愚かなオレに、樹愛の眩しくて大きな瞳が重なった。
いつもだったら、はにかんですぐに視線をそらしてしまうオレだったけど、この時ばかりは彼女の瞳があまりにも美しくて吸い込まれるように見とれてしまった。

それがいけなかったのかと思った。
彼女はオレなんかと違い本物のヤンキーだ。
肩がぶつかった、顔が気にいらない、むしゃくしゃしていた。
たったそれだけの理由で血の雨を降らす本チャンだ。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)。