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「忘れな草」第18話

新連載!「忘れな草」第18話

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「ええか。ここだけは履き違えんなよ。何もウチの大事なチビに暴力振るった奴を成敗せぇとか、その犯人を探し出して、ひっとらえるとかゆうとんのと違うんやどっ。そんなんゆうとんのとちゃうねん。
それはウチのチビが、これから頑張って乗り越えていかなあかん問題や。大人が口出せるコトやない。オレがゆうとんのは、イジメとかそんなしょうもないもんが、絶対起きへん環境を大人のオノレらがつくったれ、ゆうとんねん。
確かに今回はイジメとちゃうかもしれん。でもな、こういう所から、イジメゆうのは生まれんのとちゃうんかっ、ええ校長っ」

「おっ、おっしゃる通りでございますぅ」
「そやろが。イジメが始まんのに、理由なんかあってないようなもんや。ハシの転んだようなコトでも始まれば、イジメはイジメや。
なんの前兆も前触れも落ち度もないのに、ある日突然イジメが始まるコトだってあるんや」
オレの時もそうだった...と言いたいが、あいにくイジメられた経験はない。

「イジメられる側が辛いのは、当たり前や。でもな、その辛さのあまり、死という行き着く所まで行ってみ。どれだけの人間が苦しむコトなるか、お前ら考えたコトあるか。そのイジメられとった子の両親、家族、みじかな人達。そしてイジメとった子ら、その家族 みんな辛なんねん。みんな苦しなってまうねん。お前ら教師だってそうやろが。
もしも受け持った子供が自殺してみ残りの人生、笑って生きて行けるか」
オレは一端そこで言葉を切ると、端から順に視線を投げた。
じわじわとだけど、ようやくここへ来て、オレに対しての恐怖心からだけではなく、オレが言おうとしてるコトの重大さに気付き始めたようだった。

さっきまでは、失礼ながらもオレの風体に竦み上がり神妙だったのが、同じ神妙でも今はあきらかに違っていた。

「ええかー」
オレはそこから声色をかえ、一言、一言をしぼり出すように言葉にした。
「その段になって、イジメの事実はありませんでした、とか、生徒のSOSに気付くコトができませんでした、とか、そんな言葉が通る思ったら、大間違いやぞ。仮に世間に通ったとしても、オレだけには絶対通らんぞ。後悔なんて生優しいもんじゃすまん地獄をみせたるから、そのコトをよぅ忘れんように頭入れとけよ」
グランドから流れてきた体育教師の掛け声に紛れて、四人の息を飲む音がはっきりと聞こえた。

これだけ脅し上げておけば、大丈夫だろう。
間違っても教師がイジメを先導したり、イジメの輪に加わるというような、愚かな過ちだけは犯さないはずだ。
オレが今してるコト。口に出してるコトが正しいなんて言いはしない。批難の対象とされてもおかしくないだろう。
でもオレにはそんなコト関係なかった。世間の目
なんてオレには、一切関係ない。
オレの愛するチビ達を守り抜く為ならば、それが法に触れることだったとしても、躊躇しないだろうし、大いに批難されても結構。望む所だ。
でも子供には子供の世界がある。オレがとらのすけに暴力を振るった子供達を捜し出し、その親に同じような仕打ちを「返し」としてやるのは、実にたやすい。だが、それは出来ないし、やりたくてもするべきではないと思う。
なぜならば、それは子供の問題だからだ。
とらのすけが自分で乗り切らない限り、答えはやって来ない。だから逃げるなっ、と言うのではない。
学校に行くことで辛くなったり、苦しくなったりするのであれば、そんな場所に行く必要なんかない。
ただ本人が行きたい、と言うのであれば、安心して楽しく過ごせる場所をオレはつくってやりたかった。
とらのすけが子供の世界で必死になって戦おうとしてるのであれば、オレも大人の世界でとらのすけの為に戦ってやりたかった。

「中学二年生いうても、まだまだ子供やし、精神面でも不安定な時期や。そやからこそ、一人一人の生徒のコトをお前らがちゃんと理解し、何をするにしても愛情持って接したれ。勉強教えんのも、しかるのも全部愛情持って接したれ。話しを聞かすだけやったらあかん。子供の心が見えるまで、子供の話しをじっくり聞いたれ。信頼される大人であったらんかい。
オレがゆうてんのは、めちゃめちゃ難しいことや。そのめちゃめちゃ難しくて大変な職業が、お前らの仕事や。ちゃうかっ?
人様の大事な子供預かっとんねん。時間割り通りに勉強だけ教えとったら、ええんとちゃうねんぞ。
お前らのその掌の中から、伝えたことが育まれて、将来それぞれの道に進んでいくんやろ。
立派になる奴もおるやろうし、オレみたいに落ちこぼれていく奴もおるやろう。立派な奴も落ちこぼれた奴も、全部がお前らの愛の結晶であらなあかん。
できへんのやったらやめてまえ。やるんやったら、誇りを持って、責任を持って、人として大切なコトを、お前らがしっかり伝えていったらんかいっ!」
ヤクザ者のオレに教育者が教育論をとかれるのだから、世も本当に末なのかもしれないが、、、。

校長室から出ると、授業終了のベルか、それとも開始を告げるベルかわからないけれど、鳴り始めたチャイムが、校舎全体に響き渡っていた。
辺りが息を吹き返したように騒がしく動き始める。
どうやら授業終了を告げるベルだったようだ。
「ちょっと待ちいよっ! 」
オレはびっくりして振り返った。
けれど、その言葉はオレに放たれたものではなかった。
「うるさいわっ、おまえら女子が勝手にやっとけやぁっ!」
「そうじゃっ、おまえらがやっとったらええやんケッ!」
「なんでよ、あんたらも手伝いよっ!」
「先生にゆうたるからなっ! 」
数人の男子と女子が白熱した攻防戦をくりひろげながら、オレの横を通り過ぎていった。
オレも昔よく悪さをしては、こんな風にクラスの女子達の非難を独り占めしたもんだ。
その頃は口うるさい女子に心底辟易したもんだが、大人になった今では、それすら微笑ましくて懐かしい。
学生時代が短かった分、中学の3年間は、どれをとっても大切な思い出になっている。
その時は、悔しかったコトも嫌だったコトも、今では大切な宝物になっている。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)