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「忘れな草」第17話

新連載!「忘れな草」第17話

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間違いなく、子を想う愛情だ。
でも、オレはとらのすけにそうにはなってもらいたくなかった。
目の前で困ってる人がいれば、迷わず手を差し延べるコトの出来る人間になって欲しかった。
それは時として、勇気のいる行為かもしれない。
でもその勇気をとらのすけには、育んでいって欲しかった。
いくら算数や社会が「よくできる」でも、困ってる人を見て素通りしてしまうようならば、そんなものなんにも意味はない。知ったように使われているが、世の中には教科書なんかに書かれているコトよりも、もっともっと大切なコトが沢山ある。
オレはバカだから、それを学校でも社会でもなく、刑務所の中で学んで来た。

「どうやったっ?」
とらのすけの部屋から出て来たオレに、ゆまは不安げな顔を向けた。
オレは黙って、ソファーに身を沈めると、タバコをくわえた。
「ねえっ!どうやったんよっ」
急き立てるゆまをゆっくり見つめた。
「なっ、なによぉ」
「やっぱり、とらのすけはお前の子やな思ってな」
くわえたタバコに火をつけ、吸い込んだ紫煙をゆ
っくり吐き出した。吐き出した紫煙はすぐに形を無くし、朧げに消えていく。
「何も心配せんでええ。とらのすけは、何も間違えてへんから、えらかったゆうて、抱きしめてやったってくれ」
オレもそして目の前のゆまも、今、小次郎が悩み苦しみ戦おうとしてる場所を駆け抜けてきた。
オレやゆまだけではない。
ブラウン管の奥で、踏ん反り返った肩書にあぐらをかいている奴らも、数多くの罪を犯し過ぎて、ただ殺される為だけに生かされている死刑囚も、大人になる為に同じように、その場所をかけぬけて、今という場所に立っている。全力でその場所を駆け抜けて来たからこそ、今がある、そう思いたい。
そしてあいのすけにも全力で、今を駆け抜けて行って欲しかった。
意味があるかないかわからないような、社会のルールや価値観に、無理矢理押し込められたりするコトなく、少年の大事な部分を無くさずに、大きくなっていって欲しかった。
オレはその真っ直ぐな少年の心を、ただ守ってやりたかった。


「なんで、もっとも人間として尊い行為したウチのチビが、顔腫らして、学生服ぐちゃぐちゃにされて、帰って来なあかんのじゃいっ! オノレらが鈍臭い勉強ばっかり教えて、肝心なコト一つも教えてへんから、こうなっとるんとちゃうんかいっ!」
翌日。オレは文字通り、とらのすけが通う中学校へと怒鳴り込んでいた。

オレは校長室のソファーに踏ん反り返り、一席ぶつと、目の前に並べた、校長、教頭、学年主任、担任の4名を順に睨めつけた。
どの顔もヘビに睨まれたカエルの如し、竦み上がり顔面を蒼白させていた。
心許なさ過ぎる。
こんな大人達で支配された場所に、ウチの大切なチビを預けるのは、どう考えても心許なさ過ぎた。

「おまえらホンマにいけんのかいっ!そんなんで、
人様の大事な子供預かって、ええ方向に導いていけんのかいっ!」
「すっ...すいましぇん...。今後二度とこういうコトがないように、私どもも徹底してー」
かなり後退した額に、センスすこぶる悪いハンカチを、小刻みに当てる教頭の言葉を怒声で掻き消した。
「やかましわいっ!しゃべんなマニュアルっ! 。二度とこんなコトがないのは、当たり前じゃボンクラっ!!。そんな眠たい話ししとんとちゃうんじゃ!
徹底してって、オノレは徹底して何する気やねん。そもそもそうゆう教育体制がまちごうとるから、こうゆうコトがおきてんのとちがうんかいっ!」
場を代表してありきたりの謝罪文言を並べようとしたばかりに矛先がむけられてしまった教頭は、ヘビに睨まれたカエルから、車に踏み潰されてペシャンコになってしまったヒキガエルに、様変わりしてしまった。
NO2からしてこれである。ますます心許なくなってきた。

「ホンマに中学生という微妙でデリケートな年頃の子供ら預かって、お前ら勉強なんかより、もっともっと大切なもんを教えるコトが出来るんかいっ!」
何か喋って、さっきの教頭の二の舞をくいたくないのであろう。四人とも神妙な顔をしたまま俯き、質問にこたえようとしなかった。誰もオレに視線をあわせようとしなかった。

「悪いコトはゆわん。できへんのやったらやめとけ。お前らのように、出来るかどうかわからん中途半端な奴に、ウチの大事なチビ預けられるかいっ。やめてまえっ。やめて畑でも耕しとけつ。それが世の為、人の為じゃっ。おいコラッ、オドレら、下向いて人の話しきけんのかいっ!!」
オレの怒声と共に、四人の視線がはっとあがり、オレを見た。

「どないすんどいコラッ!おい校長!偉いんは肩書きだけかいっ!性根いれてこたえたらんかいっ!」
「はっはいっ。微力ではありますが、子供達とふれあってゆく中で、私どもも同じように、人として成長してゆきながら、塚口様がおっしゃる大切なコトを精一杯、教えるのではなく、伝えていかせていただきたいと考えておりますです、、、はい、、、」
塚口様ときやがった。
だが校長の弁には、伝わるものが確かにあった。
マニュアルではなく、人の言葉だ。声は恐怖でひきつっていたし、どこまでいっても、しどろもどろのかんはイナメなかったが、一生懸命さが垣間見えた。
少なくとも教頭の弁のような、ザ·マニュアルとは雲泥の差だ。

コイツが一家の長として君臨している限り、ウチの大切なチビを預けても大丈夫かもしれない。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)