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水曜はヤバすぎるアンダーグラウンドエッセイ from 東北

元四次団体組長・張恭市の「受刑者が一年でいちばんやさしくなれる日」

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とある大手暴力団(日本でいちばん有名なあそこですね)からスッパリと足を洗い、現在は被災地復興のため日々汗を流す「喜多方の帝王」こと張 恭市。そんな福島在住の張が被災地の現況から刑務所の実態まで、ヤバすぎるリアルな話を大いに語り尽くします!


塀の中のメリークリスマス


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 毎日毎日平凡で自由の無い、退屈な1日を過ごしながら、ただ出所までの長い道のりをジッと耐えながら生活している懲役受刑者にも、12月になると身も心もウキウキしてくる時期となる。

 もう間近に迫る新しい年を前に、受刑者達にとって新年を迎えるということは、それだけ出所に近付いているということ。

 そして、12月にはそれだけじゃない特別なイベントがある月だからである。

 テレビやラジオから頻繁に流れてくるX'mas関連の曲。

「もうそろそろだな...」

 老若男女、塀の中にいる懲役達にもX'masは訪れる。

 私の場合、ジョン・レノンの『Happy Christmas』やB'zの『いつかのメリークリスマス』、甲斐bandの『安奈』がラジオから流れてくると、X'masが来たと塀の中で感じれた。

 一般の方には理解できないだろうが、12月24日のクリスマスイブの日には、どこの刑務所でもケーキと鳥もも(施設によっては、鳥ももではなく、炊場で作った鶏肉唐揚げの場合もあり)が受刑者一人一人に配られ、気持ちは少しだけX'mas気分となり、娑婆っ気を味わえる事が出来る。

 どんな犯罪を犯してきたヤクザ者でさえ、どんな大酒飲みな受刑者でさえ、塀の中に落ちてしまうと、誰でも甘党となってしまう。

 娑婆ではケーキなんて見向きもしない強面のヤクザ者でさえ、塀の中で出る小さなショートケーキに満点の笑顔でかぶりつく光景、皆さん想像つくろうか?(笑)

 クリスマスイブ当日、その日の作業を終え、舎房に戻るとすぐに点検の用意となる。

 全ての点検を終え、ようやく夕飯が舎房ごとに配られる。

「なんだよ? 昨年のケーキより小さいじゃねぇかよ?」とブツブツ言いながらも、まるで少年のような眼差しで前科8犯のヤクザ者はクリスマスケーキを見つめていた(笑)。

「もう、こんな惨めなX'masは懲り懲りだ。娑婆にいたら、食いきれない程のケーキを買って、高級なシャンパン呑んで、美人のお姉ちゃんがいる店で豪遊してやるんだ!」
そんなことを、毎回窃盗で逮捕されてくる、刑務所6回目、所持金ゼロの懲役太郎(ベテラン)がほざいていた。

「まったく説得力ねぇな(笑)」

 いつもなら喧嘩にでも発展してしまうような言葉も、その日だけは皆笑顔でいられた。

 聖なる夜は、どんな犯罪を犯してきた罪人にでも、気持ちを穏やかにさせてくれる不思議な力があった。

「毎日X'masだったら、犯罪者増えないかも知れないな(笑)」

 そんなバカな事を考えながら、私は目の前にある小さなクリスマスケーキを一口頬張った。

 塀の中にいる以上、一年に一度しか食べれない生クリームの味。

 これぞ、娑婆の味。

 鉄格子越しの窓の外は、大粒の雪が降っていた。

 決して暖かくはない部屋で、冷めきった鳥ももと小さな小さなショートケーキを目の前にして、ほんの些細な幸せにでさえ、涙が出るほど懲役には嬉しく思えた。

 2015年9月末時点で、全国の刑務所と拘置所に収容されている人数は59,012人

 今はそれより増えているのか減ってるかわからないけど、今年のX'masも自由を奪われ、拘束された空間の中で聖なる夜を迎える者もたくさんいることだろう。

 本来ならば、クリスマスイブの夜に最愛の家族や恋人と一緒に過ごしたい筈だろう。

 でも、悲しいかな犯罪を犯してきた者には聖なる夜もへったくれもない。

 でも、一度でも自由の無い塀の中で屈辱的なX'masを味わったのであれば、もう2度とそんな惨めなX'masを過ごすこと無く、自由な空間の中で大切な人達と幸せなX'masを過ごせることを切に願っています。

 これを読んでくださった皆さんにも、今現在、塀の中でお務めしている受刑者の皆さんにも、今年のクリスマスにサンタさんが素敵なプレゼントを持って現れることを信じています......。

 Merry X'mas......




張 恭市
ちょう きょういち 元、某広域暴力団の三次団体幹部。四次団体組長。前科6犯。20代半ばから30代半ばの大半を、塀の中で過ごす。韓国人の父親、日本人の母親を持つハーフ。7年前に約20年所属していた組織から足を洗い、今は地元で数々の経営に携わり、東日本大震災後、復興支援のチャリティーイベント主催者、ボランティア活動、芸能界とのパイプを利用し、復興ライヴ興行等、幅広く活躍している。