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東京ピカレスク 新章~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ ピカロの布石

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新章「サイバーアウトロー」連載第38回 ピカロの布石


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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あらすじ
詐欺の拠点と人材について三井は鹿児島と会議を重ねていた


「先生。木を隠すなら森の中、だよ。そんな、住宅地のマンションはダメ」
 オレは、鹿児島が選んできた物件にダメだしをした。

「でも、師匠。師匠が選んできたマンションの方がヤバくないかい」
 せっかく吟味したマンションを、ダメだしされた鹿児島はムッとした表情でいった。

「実はね。これは、鈴彰さんから教えてもらった、裏商売の事務所の選び方なんだって」

 三井をピカロの道へと誘った鈴彰は、いまだ流浪の時代に競馬のノミ屋をやっていた。というより、ノミ屋の集金係であった。

 最初は歌舞伎町のヤクザマンションといわれている『LEONマンション』を知人から借りて営業していたらしいが、同じ階にあるヤクザの事務所に、よく査察(ガサ)が入る。そのたびに注意し、シキテン(=見張り)を切り、ビクビクしながら営業していたという。

 ところが、鈴彰らの心配をよそに、ノミ屋は2年半捕まることなく順調に続いた。オーナーも少しはカネに余裕ができたので、ワンルームマンションであるLEONから、住宅地にある2LDKの広いマンションに引越した。

 その1か月後、すぐにガサを食らったという。

「つまりね、閑静な住宅地はジャージ姿でウロついたりすると、余計に目立つのさ。でもヤクザマンションは、当番の若衆らの出入りが多いから逆に目立たない。それに、LEONマンションは住居というより、オフィス仕様で建てられているから、気密性がしっかりしている。つまり、声がもれないのさ。だから、LEONマンション池袋にしようよ」

「ふ~ん、なるほどねぇ~」
 鹿児島は感心したようにオレを見た。

 もちろん事務所であるLEONマンションも、知り合いの不動産業者が用意した名義人が契約し、それをウチが借りるという又貸(またがし)である。こうしておけば、たとえ摘発されたとしても不動産業者に迷惑をかける心配はない。

 風俗や賭博等の裏商売には、名義人というダミーの経営者がいる。 実質的な経営者の代わりに逮捕されるのが役割だが、オレたちのような架空請求業者には名義人という存在がなかったのである。このあたりは、架空請求業者は潔かった。名義人に多額のカネを報奨金として渡す必要もなく、自分たちで罪を背負うと肚をくくっていたのである。

「じゃあ、事務所の件は師匠に任せるよ。LEONマンション池袋でいいと思います。で、オレは......」
「先生は、人材を集めてよ。逮捕(パク)られてビビるようなヤツじゃなくって、カネさえもらえればなんでもするようなハングリーなヤツがいい。先生んとこには、いっぱいいるべ?」

 今度はオレが、鹿児島を見た。

「いることはいるよ。で、師匠。とりあえず開業時に、何人ぐらい従業員が必要かな」
 鹿児島は、真剣なまなざしで尋ねる。オレは、しばらく考えた。

「まず、出し子(=受け子)が最低3人ぐらい。電話係(=プレイヤー)が1人。データ係(=名簿係)が1人ってとこか。でも、最初から人件費がかかるのはよくないので、出し子を2人か3人、用意してよ。口を割らず、根性があって気転の利くヤツ。あとはオレたちがTwoTop(ツートップ)体制でやろう。将来の責任者として若い小枝を雑用から使って、余裕ができるまでオレたちが経営者兼従業員でがんばろう」

「よし、やろう!」
 鹿児島は、力強くいった。