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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第20回 鈴彰の消せぬ過去 後編

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連載第20回 鈴彰の消せぬ過去 後編


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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前回までのあらすじ
三井は鈴彰から突如Barに呼び出された。そこで思いがけず鈴彰が親指を失った過去を聞くことになる。


「おっ、三井か。どうしたんだ」
五十嵐は、席に着くなりオレに尋ねた。

「いや、オレが呼んだんだよ。コイツとは、ここで知り合ったからな」
オレに代わって、鈴彰が答えた。

「ほう~、客かなんかだったんですか」
五十嵐が、興味深げに訊く。相変わらず甲高い声だった。

「ここでバーテンダーをやっていてな。最初のころは、オレのこれを見てビビッてたんだよ」
鈴彰は、また欠損した左手の親指を示した。

「まぁ、入社早々、アイドルのクルマを引き上げにいかされたり、占有でボコボコにされたりと、かなりヒドい目に遭ってるからな。それに、先月の新規貸付ベスト3にも入ったことだし、個人的にちょっと祝ってやろうと思ってな。いい拾いものだったよ。あとで、ママにも報告しとかないと......」

鈴彰は、オレをチラッと見た。
会長の鈴彰が、一社員であるオレを労ってくれる気持ちが嬉しかった。

「さて、五十嵐。これを......」

浮かれ気分でいたオレを尻目に、鈴彰は花札のようなものを五十嵐に渡した。
一見花札のようだが、よく見るとデザインが違っている。どうやら、これが手本引きの札のようだ。

「会長、これは......」
五十嵐は、ギョロっと鈴彰を睨みつけた。

「オマエが胴で、昔オレたちが決めたローズで合図を送れ。あの日の盆のように。あいにく張り札しかないが......三井も、オレの横で五十嵐の表情を観察してみろ。特に、不自然な動きがないか、な」

鈴彰はボックスの端にズレて、オレを隣に座らせた。
五十嵐は、黙って6枚の札を自分の前に広げた。

「それでは......」
すでに五十嵐は、博徒の顔になっている。

ただ、右手の親指がないので、左手を器用に使い6枚の札を背中に隠し、1枚の札を選んでテーブルの上におき、残った札5枚をその下に並べた。

「ほら、当ててみろ。先ほどいったローズで五十嵐は札を引いている」
眼球の動きで、当たり札を知らせるというイカサマ技だ。

オレは一瞬、五十嵐の眼球が左から右に回したように見えた。
(左から回すのは偶数だったな。まばたきはしていなかったから、偶数の2か6だな)

残念なことに、五十嵐の動きに澱みがないため、最後の眼球の動きまでは見えなかった。

「さぁ、三井。当ててみろ」
迷うオレを、鈴彰が促す。

「はい。それでは、2です」
2か6、2つに1つの確率だ。オレは直感で答えていた。

五十嵐の口元が少し歪んだ。

「残念だったな。五十嵐が引いたのはピンだよ」
鈴彰は、確信を持った口調でいった。

「はい。会長、当たりです」
五十嵐は、自分の引き札をめくった。札には、シュールなデザインの漢数字の一が描かれていた。

「な、なんで!絶対、偶数なのはわかっていたんですが......」
ハズれた悔しさより、まるでキツネにつままれたような気がした。

「五十嵐は左を見たようなふりをして、実はアゴを左に数センチ動かしただけだ。それをオマエは、左を見たと錯覚したんだ」

「はぁ」

「それに、『下手な本引き2、5、6が動く』っていってな。手本引きの下手なヤツは、2、5、6に張りやすいんだ。オマエは、偶数の2か6だと思っていただろう。五十嵐の所作に操られたわけだ」
オレは鈴彰の説明を聞き、呆然とした。

まるで、手品やマジックのようだった。

「これだけサマを操る五十嵐が、捕まるなんて、オレは夢にも思っちゃいなかった。だけど、賭場には人智をこえた超人のようなヤツがいる。あのときもそうだった。オレたちのサマが、そいつらに見破られ拉致(らち)られたんだ」
五十嵐も当時を思いだしてか、瞼を閉じて聞いている。

「少しずつ勝ち続けていたオレは、勝ちの額が800万円を越えていた。今なら、3千万円の価値はあるかな。あと5回くらい、いってこい(=プラスマイナスゼロ)で終わらせ、疑われずに帰ろうと思っていた矢先だった」