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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第16回

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連載第15回 ピカロVSヤクザ その2


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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前回までのあらすじ
三井は債務者の担保物件占有という新たな仕事に志願したのだが、そこには今までにない危険な薫りが漂っていた......


「うわぁ、スゲぇ!」


 オレと坂田は、玄関のドアを開けた瞬間、思わず声を上げた。

 玄関口には大きなシャンデリアが下がっていて、間口も広さも十分にとられている。正面には、素人のオレにでもわかる、フランスの印象派の巨匠の描いた絵画が飾られていた。

応接室にはマントルピースに、ローマの宮殿に置かれているような高級家具。
これが、本当の金持ちの住む家なんだなぁと、2人はためいきをついた。

だが、栄耀栄華を誇った一族も会社も、わずか一夜のうちに他人の手に委ねられ、逃げださなくてはならない。

オレは複雑な心境だった。

「先輩、なに考えてるんスか?オレ、スゴいもん発見しましたよ!」
坂田は目を輝かせていった。

「デカい金庫が、応接室の書棚の脇にありました!きっと、カネが詰まってますよ。先輩、やりましたね!」
 坂田は、自分が金庫を発見したことに興奮しているようだった。彼の胸のうちでは、オレが今日の功労者だとでも思っているのだろう。

 坂田は、一人で舞い上がっていた。

(だいたい、トサンみたいなバカげた高金利で、800万円も引っぱるようなヤツが、現金もっているわけがないだろうが)

 そんな坂田を横目に、オレは心の中でつぶやいた。

「おいおい、金庫の中も確かめないで、空っぽだったらどうするんだ。オレたち高利貸しは、回収してはじめて利益を得る。坂田くん。今のキミみたいのを、獲らぬ狸の皮算用っていうんだ」
 坂田の喜びに水を差すようだが、オレは苦言を呈すつもりでいった。

「そうですよね。じゃあ、オレは鍵屋のおじさんを呼んできますよ」
 オレに誉められず、逆に忠告されたことにムッとしたのだろう。坂田は投げやりになったようにいった。

「あぁ、それが賢明だな。とにかく期待はずれだと、キミもガッカリだろ。そうならないよう、オレたちは現実を直視しようよ」

「はい!」
 坂田は、意外にふてくされることなく明るく答えた。

「それにしても、関内のオヤジはどこへいったんだ」
オレたちは、周囲を見まわした。

玄関の鍵を開けるところまで、関内のオヤジの姿を確認している。しかし、それ以降はどこにいったか、わからなくなっていた。

「お~い、鍵屋のおじさ~ん!」
 坂田は玄関口に下りて、豪華なドアを開けて関内のオヤジを呼んだ。

「あっ!」
 坂田は、小さく声をあげた。

「どうした」
 オレは坂田の方を見た。

「い、いや、先輩。この屋敷の前に、今ベンツが急停車したんですけど......もしかして、先ほど先輩が剥がした紙に書かれていた、秋山興業の連中じゃないですよねぇ」
「まさか......」

 オレが答えた瞬間、チャイムが連続して鳴った。

「せ、先輩!」
 顔を強ばらせ、坂田がオレを見る。

「コラ!おい、開けろ!誰だ、人の物件に黙って入ってやがるのは!ナメとんのか、ゴラぁ!」
 ものすごい声で、数人の男たちの怒声が響く。


「ブッ殺すぞ!コラ、早く開けろ!」

 怒鳴り声は、どんどん過激になっていく。

「そ、そうだ!坂田くん、少し様子を見ておいてくれ!」
 オレは2階への階段を駆け上がった。

「先輩!どこへいくんですか!1人で逃げないでくださいよ!」
 坂田の泣き出しそうな声が、背後で聞こえる。

 オレはゴージャスな螺旋階段の中途で止まり、坂田に向かっていった。

「バカヤロウ、逃げるんじゃねぇ!2階にある電話で、事務所にどう対処したらいいか訊くんだよ!」
 坂田は、ホッとしたような表情を浮かべた。

「あっ!ヤツら、門の鍵を壊してしまいましたよ!こっちに向かってます」
 ホッとしたのもつかの間、坂田は再び泣きそうな声をあげた。オレは坂田を無視して、2階のリビングの電話をとった。


(どうか、つながってくれ)


 オレは、神にでも祈るかのようにプッシュホンのボタンを押した。