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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第12回

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連載第12回 ピカロの講義 初出勤その2


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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前回までのあらすじ
三井裕二(みつい ゆうじ)は、先輩社員の菜摘にデスクワークのいろはを教わることになったのだが。


「はぁ、電話番号から、住所を......ですか?」
先輩社員からの突然の問いに、オレは戸惑ってしまっていた。

「そうよ。裏の金融業界では、こういう仕事も大事なの」
菜摘は立ち上がり、またオレの席に歩みよる。

そして、オレに1枚のメモ用紙を渡した。そこにはかわいい丸文字で、電話番号が書かれている。
「東京、03の3●△■、●△■■......ですか。あっ、そういやオレ、入社試験でNDK(=日本電話局)に電話をかけて、1人知り合いになった社員がいますから、そいつに調べさせますか?」

前日の牧川との面接で、NDKとゴネることが入社試験だった。
その試験で、オペレーターの上司である堀田某とかけあい、ゾロ目の電話番号をゲットすることに成功している。

(ヤツなら、電話番号から住所を調べるのなんて朝飯前だろう)

オレは、菜摘にそのことを伝えた。

「ダメよ」
菜摘は、即座に返答した。

「なぜです?」
オレは納得できず、菜摘に尋ねた。

「あのね、三井くん。これからは情報化の時代よ。いまに、個人情報の売買が大きな商いになるの。そんなアカの他人の個人情報を持っている人たちって、誰だかわかる?」
逆に菜摘は、オレに問い返した。

菜摘が語る将来の展望は、奇しくも現実のものとなる。そしてオレは、個人情報を売買する会社を立ち上げ独立することになる。
だが、この時点では、そんな先の未来のことなど知る由もない。オレは、菜摘への答えを考えた。

「う~ん......警察とか、役所とか......ですよね」
「ピンポ~ン!あら、三井くん。お利口ね」

菜摘は、おどけたように声をあげた。

「そんな公的な機関から個人情報を得たのはスゴいことだけど、住所を調べるだけで、そんな貴重な情報源を使うのはもったいないわ。だから、自分で調べるの。いい、見てなさい」

どうも菜摘は、オレに対して先輩風を吹かせたいようだ。
菜摘はオレの席に座り、デスクの上の電話を取った。そして、おもむろにダイヤルを押した。

「もしもし、金城(きんじょう)ですが......」
受話器の向こうで、覇気のない男の声が聞こえる。寝起きなのだろうか、眠そうな声が受話器の奥から聞こえてきた。

「もしもし、もしもし。あっ、金城さんのお宅でございましょうか?」
「はい、そうですけど......あのぉ、どちらさまでしょうか」

まだ、携帯電話が普及する前である。連絡は家電が当たり前の時代だった。

「実はわたくし、南武デパート配送センターの者なのですが。えっ~と、金城......」
今までドスの利いた声で話していた菜摘が、一転してアニメのキャラのような愛らしい声で話し始めた。

「和樹(ともき)ですが」
「あぁ、よかった!金城和樹、ご本人さまでいらっしゃいますね。ただいま、こちらに連絡が入りまして、今日、金城さまへのお届け物の送付票の宛先部分が著しく破損しておりまして......は、いや、中身には異常はございませんが......」

あの低音でしゃべる菜摘の、どこからこのような高い声が出るのだろうか。

「女は天性の役者である」と誰かがいっていたが、彼女の声色(こわいろ)を目の当たりにして、改めて思い知らされた気がした。

「欠損しているご住所をおうかがいしたく、お電話をさせていただきました」
よどみなく話しているということは、相手もうまくダマされているのだろう。

「はい、東京都葛飾区●―●●―●A棟の24号室でございますね。了解いたしました。すぐ配送手続をさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
菜摘は受話器を置くと、満足げな表情をオレに向けた。