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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第11回

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連載第11回 初出勤日 その1


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。


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前回までのあらすじ
三井裕二(みつい ゆうじ)は、ヤンキータレント 小松崎愛の高級車を回収するべく駐車場へと向かったが、そこで彼女の親衛隊に囲まれてしまった。なんとかその包囲網を突破しようとするのだが......


「三井くん......だったわね。おはよう」

 そのかわいい風貌とは似つかないドスの利いた声で、ローンズまきかわの紅一点、経理の榎本菜摘がオレに声をかけた。

「あっ、おはようございます」

年は同じくらいだろうか。しかし、今日はオレの初出勤日。会社では新参者だ。悪漢(ピカロ)の世界は、組織でのヒエラルキーは絶対守らなければならない。

「自分、三井裕二(みついゆうじ)と申します。よろしくお願いいたします」

オレは菜摘に対して丁重な挨拶を返した。そんなオレの殊勝な態度に感心したのか、菜摘はニッコリと笑った。

「そういえば、昨日は小松崎愛ちゃんのクルマ、引きあげてきたんだってね。初っぱなから大活躍じゃない」

「あっ! えぇ、ありがとうございます」

「じゃあ、今日が三井くんの本当の初出勤になるのね。いくら初日に初金星を獲ったからといって、アナタはウチの新入だから出勤してからの仕事を覚えてもらわないと困るので、これから教えるわね」

「はい、よろしくお願いします」

「フフフ......」

菜摘は、ふくみ笑いをした。

どうやら彼女は、慇懃に話すオレに好感を持ったようだった。

同世代とはいえ、やはり男相手に先輩ヅラするのは嬉しいようである。そんな、菜摘がかわいらしく思えた。

「まず出勤は9時だけど、事務所の掃除があるから毎日定時より30分前には入ってね。掃除器具は、ここにあるから......」

菜摘はオレを促し、ロッカー脇の用具入れを指差した。

「最初は、トイレからお願いね。ウチの会社はその筋風のお客さんも多いから、トイレが汚いと会長(=鈴彰)や五十嵐(=総責任者)までが笑われるから、気をつけてね」

菜摘は、真剣なまなざしでオレを見た。

「あ、はい」

「いい。便器は、必ず手で磨くこと。完璧なトイレ掃除は、便器の水を自分で飲めるかどうか、よ。三井くん。この水、飲んでみる?」

「は、はい。いや......」

菜摘は小悪魔のような笑みを浮かべた。

この当時、オレは逮捕された経験がなかった。だが、コンビニなどで売っている刑務所体験マンガなどは、オレの大好きな愛読書だった。

(これって、刑務所の掃除法じゃね?)

一瞬、オレは菜摘が刑務所での服役経験があるのかと、疑ったほどだ。

現に鈴彰に五十嵐、そしてこの事務所の社長である牧川。胡散(うさん)くさい鍵師の関内のオヤジ......あまりにも、強烈な個性の持ち主ばかりがそろっていた。

だから、普通にかわいく見える菜摘も、過去には壮絶な人生を送っていたのではと、思ったのも当然であった。

オレが勝手な想像を巡らしているとはつゆ知らず、菜摘は話を続ける。