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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第7回

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連載第7回 人気タレントVSピカロ


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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前回までのあらすじ
三井裕二(みつい ゆうじ)は、〝親指のない男〟鈴彰(すずしょう)が会長を務める高利貸しグループの支店『ローンズまきかわ』で働くことになった。そこで入社当日に倒産したある人気タレントの事務所に債務整理へ向かうのだった。


「ハァハァ......すいません、ローンズまきかわです。しゃ、社長が、すぐに鍵を頼むとのことです。一緒にご足労......ハァハァ......願えますか」

オレは池袋駅前にある『合鍵のセキウチ』に駆けこんで、息を切らせながらいった。

「あいよ、牧川さんとこね。どこまでいけばいいの?」

店主らしい50歳ぐらいで、眉毛が劇画調のように太いオヤジが訊いた。

「確か、渋谷だったと思います」
「あぁ、都内なの。近いね。じゃあ、道具をもって車でいくから、会社の前に15分後に......」

合鍵のセキウチ店主・関内(せきうち)芳夫(よしお)は、開錠不能な鍵はないと豪語する鍵のスペシャリストである。
われわれのような裏稼業ばかりでなく、ときどき警察などの捜査協力もしているという。 
関内の容姿風貌は、裏稼業を生きる人間だけが持つ怪しげなオーラが感じられる。
それに、腕は確かだが料金はべらぼうに高い。これも『警視庁ご用達』という、お墨つきが含まれての料金なのだろう。

関内のオヤジは、手を差しだした。

「あっ!じゃあ、これでお願いします!」
オレはポケットに入れた、ぶあつい封筒を関内に渡した。
おそらく出張手当だろうが、普通の合鍵屋に渡す金額の倍以上は入っていたのではないだろうか。


(この稼業はカネがうなっている)


事務所へ戻るとき、これからの話の展開にオレの胸は期待に膨らんだ。

「お~い、三井くん。そろそろ出発するぞ」
いつの間にきたのか、会社の前には新たな応援部隊の男たちが、古い金融流れのセドリックに乗ってオレを待っていた。
倒産整理という危険な仕事にでるというのに、なぜかオレは遠足にでもいく小学生のようにワクワクとしていた。

われわれの倒産整理軍団はオレと牧川が先頭を走り、そのあとを鈴彰グループの応援部隊の3人が乗るセドリック。そのうしろには荷物運搬用のトラックに2人と、鍵のセキウチのオヤジの軽四が続く。
合計4台の車と総勢8人の布陣だった。

「おい、鍵屋とトラックはついてきているか」
道中、車を運転しながら、牧川がオレにいった。オレは窓から首をだして後方を確認した。

「はい、大丈夫です」
オレは元気よく答えた。

「さぁ、気ぃ抜くんじゃねぇぞ!一つ間違えれば、うしろに手が回ることになる!」
牧川はオレを睨んでいった。

その瞬間、いいしれぬ衝撃が体内に走った。
(この緊張感こそ、オレの望んでいたものなんだ)

こんな気持ちになったのは、過去の人生で経験したことがなかった。オレは生まれて初めて、自分の仕事に充実感を持てたのである。