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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第3回

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連載第3回 本物のピカロ(悪漢)


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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前回までのあらすじ
三井裕二(みつい ゆうじ)はガソリンスタンドをやめてバーテンダーになっていた。そこで常連客の〝親指のない男〟鈴本(すずもと)浩彰(ひろあき)「通称:鈴彰(すずしょう)」と出会い、三井の運命の歯車は大きく動いていくのだった。

「アンタがいつも鬱々(うつうつ)としているのは、カネをつかんでいないからだ。カネがあれば、なんでもできるんだぞ

鈴彰の言葉は、オレには衝撃的だった。

(そうだ!カネを持っていないから、いつも不満ばかりが募っているんだ)

憑きものが落ちたようなオレの表情を見て、鈴彰はニヤニヤ笑った。

「三井ちゃんよぉ。ここに100万円ある」

鈴彰はおもむろにセカンドバックをとり、中から札束をだしてカウンターに置いた。
オレは目を見はらせて札束をみた。


「これをやるから、その窓から飛びおりてくれないか」


Bar『ヨシエザウルス』は雑居ビルの4階にある。

「じょ、冗談はやめてください。ここからじゃ、死んじゃいますよ」
「なるほどなぁ。よし、わかった。じゃあ、このビルの2階の窓からならならどうだ。ただし、高さが半減した分、ご祝儀も半額の50万になるが......」

「.........」

オレは黒魔術にでもかかったような、うつろな目で鈴彰を見た。

「ハハハ......少し迷っているようだな。たかだか50万で、三井ちゃんは命を懸けようとするのか」
「あっ!」

オレは思わず顔をあげた。

「4階から飛んだら、かなりの確率で死ぬことは間違いない。だが、2階からなら助かる可能性の方が高い。アンタは瞬時にそれを計算した」

恥ずかしい話だが、オレは目の前の札束に平常心を奪われていた。

「2階から飛びおりても、死ぬこともある。死なないまでも、アキレス腱の断裂や腰椎の骨折。転んで頭でも打ちゃあ、脳挫傷や脳内出血。障害者として人生を棒に振る。その治療費をオレが負担するのか。冗談じゃねぇ、ご祝儀やってるだろ」

鈴彰はグラスを一息で空けた。

「だが世の中、無謀なことだとわかっていても、それに命を賭けるヤツもいるんだ。追いこまれてな。だったら、死んでカネだけを家族に遺してやればいい」

「.........」

「打ちどころが悪く、植物人間にでもなられた日にゃ、いくら愛する旦那でも『いっそ死んでくれれば』と女房は思うだろうよ」

「.........」


「だから、愛なんてカネでも買える。健康も、だ」


「.........」

「日本では、臓器移植は難しい。だが、外国へいけば数千万円もあれば、ほとんどの臓器を買うことができる。末期癌でも、日本では厚労省が認めない抗癌剤の治験薬が、外国では堂々と出まわっている。それで、末期癌から生還した人間が何人もいる」

「.........」

「どうだい、三井ちゃん。アンタがいった、愛も健康もカネで買えるんだぜ」

オレは鈴彰の言葉に、グゥの音もでなかった。
オレは本心を偽っていたのだ。ただ、鈴彰のように自信を持っては言い切れなかった。