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連載小説『死に体』

第31話 救われないし、救いようもないし、救う価値すらない

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【ここまでのあらすじ】3人の命を殺めた罪で拘置所に収容中の藤城杏樹。杏樹の心の支えは、まめに面会に来てくれる恋人のヒカリやヒカリの子、英須(えいす)だった。一審の裁判で死刑判決を受けた杏樹に、控訴してほしいと必死に訴えかけるヒカリ。その姿に心が揺れる杏樹だったが、自分がしでかしてしまった罪の大きさが杏樹に控訴をためらわせる。そんなある日、杏樹はぼんやりとヒカリとの出会いを思い返していた。


連載小説『死に体』第31回 第ニ章(九)

文/沖田臥龍


 兄貴の面会が入った翌日、龍ちゃんから速達で手紙が届いた。

 ヒカリがどうしてもオレに控訴させるために──オレを死なせないために──大阪刑務所に務める龍ちゃんのところに面会へと行き、オレを説得してくれるよう頼んだのだろう。

 痛いくらい龍ちゃんの気持ちが嬉しかった。言葉は乱暴だけど、気持ちが温かかった。龍ちゃんの想いが心に沁みた。

 龍ちゃんの言う通り、オレはシャブで狂っていた。トチ狂っていた。

 酒やタバコに"合わない"という体質があるように、シャブにもそれがある。合う奴はパクられるコトなく、図太く楽しみながら綺麗に遊び、合わない奴は骨の髄まで『シャブ』られる。

 どっぷりと、朽ち果てるまで溺れてしまう。それでも、また射(ぶ)つ。射ち続ける。1週間もあれば、自分が正常なのか、他人が異常なのかさえ判断がつかなくなり、猜疑心と疑心暗鬼の虜になってしまう。

 そして、重度の睡眠不足が幻覚を、幻覚が幻聴を呼んでくる。

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 本能が呼ぶ。

 殺らなければ殺られると
 
 殺らなけれは殺られると

 24時間、四六時中、完全に壊れるまで叫び続ける。

 それがオレだった。


 シャブを射って、気持ちよかったとか、スッキリしたとかいう記憶は一度もなかった。射てば射つほど、無間地獄に堕ちていくのが、手にとらなくともよくわかった。

 だったら、なぜ射つのだ。

 それが『麻薬』だからだ。

 それがシャブの恐ろしさだった。一発射てば、本人の気持ちよさなど関係なく、やめられない。

 おかげで、手に入れたはずの幸せをいともたやすく狂わし、二度と戻るコトの出来ない破滅のレールを、脱線するコトなくひたすら走り続けた。


 愚かだった。

 死ぬほど、愚かだった。

 バカは死ななきゃ、直らないというが、このバカは死んだくらいでは、直らないだろう。

 オレはいつもそうだった。いいコトが続くと、いつもその中で怯えていた。手に入れた、ささやかな幸せの中で、怯えていた。いつかこの幸せが崩れてしまうんじゃないかと怯え続けていた。

 幸せになればなるだけ怖くなっていく、なんてバカな話だ。笑ってしまうけれど、慣れていない幸せに、小心者のオレは、びびっていたのかもしれない。すくみ上がっていたかもしれない。

 怖くて、怖くて、手に入れた小さな幸せが、どこかに行ってしまいそうで怖くなったオレは、その小さな幸せを自らの手で崩壊させていた。


 笑えよ。

 救えないって笑えよ。