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世界陸上連覇のウサイン・ボルト、生ける伝説の真意

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ウサイン・ボルトの成している偉業

 
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「世界陸上2015北京」公式サイトより(リンク

 8月27日の夜に行われた、北京で開かれている世界陸上競技選手権大会における男子200m決勝で、ジャマイカのウサイン・ボルト選手が4連覇という偉業を成し遂げたことは、既にほとんどの人がご存知のはずだ。

 アメリカのガトリン選手との直接対決が注目を集めている、今年のボルト選手の世界陸上だが、100mに続く勝利でやはりその強さを知らしめた。
 昨年のボルト選手は怪我に悩まされ、ほとんど表舞台に顔を出さなかった。今年においても、世界陸上の前にはいくつかのレースに出場したものの、200mにいたっては20秒台を切ることはなく、ガトリン選手に軍配が上がるかも...と予想していた人もいるかもしれない。

 しかし、フタを開けてみれば圧勝。100mこそギリギリの勝負となったが、200mに関しては最後は流してのゴールだった。その姿をみて「これがウサイン・ボルトなんだよっ!」と興奮した人も多いのではないだろうか。
 結果を残す人の中には、才能である程度の花を咲かせられる人がいる。しかし、過去のアスリートをみても、トップに君臨してきた選手に共通しているのは「努力の結果」だろう。

ボルトの背負っている難病

 

 特にボルト選手の場合、「脊椎側弯症」という難病を患っての結果ゆえに、今までに払われた努力は並大抵のものではないだろう。
 脊椎側弯症は、簡単に言えば背骨が曲がってきてしまう病気だ。原因は特定できていない。遺伝的な説もあれば他の説もある。しかしこの病気の特徴は、ほとんどの人が子供の頃から症状はあるが、見た目には、猫背だとか姿勢が悪いなどと判断され、レントゲンを撮らない限り発見が遅れるケースが多いということである。
 厄介なのは、これといった治療方法がない事だ。定期的にレントゲンを撮って背骨の様子を観察しながら対処して、いわゆる対処療法しかとれないのである。しかし、背骨の曲がりが25度を超えてしまうと、手術をして補う必要が出てくる。ただでさえ、背骨というのは加齢に伴ってゆがんできてしまうものであり、よほど日々の生活や毎日のストレッチ、また筋トレということに気を配っていないと、その歪みも著明に進んでいくものなので、側弯症の場合はより厳しい現実を突きつけられるのだろう。
 背骨が曲がっているということは全身に影響を及ぼす。特にボルト選手の場合、左脚よりも右脚の方が、地面を蹴って進む力が断然強い。また、通常の短距離アスリートであれば上半身は出来る限りブレないことが基本だ。その姿勢を保ちながら、腕を強く振り地面を強く蹴って前へ前へと進む。しかしボルト選手の場合は、もともと背骨が曲がっているのでブレないで走ることが出来ない。この2点をとっても、短距離のアスリートにとっては致命的といえるだろう。

ハードトレーニングを支える心

 
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「NHKスペシャル ミラクルボディ第1回ウサイン・ボルト」(2012年7月放送)公式サイト(リンク

 では、なぜ彼はあれほど速いのか。それは、3年かけてつくりあげた体が物語る。
 2013年の世界陸上では、男子100mにおいてまさかのフライングで失格となってしまったボルト選手。その前年だっただろうか、あるテレビ局において彼の体の秘密をひも解く特番が放映された。そこで紹介されたつくりあげられた体の秘密。まさに努力の結晶だった。

 蹴り足の強さが違うこと、そして上半身がブレてしまうことは治しようがないので、徹底的に全身の筋肉を鍛え上げた。特に腰周り、そして上半身。下半身はもちろんのことである。通常、短距離ではハンデとされる体のブレを、前へ前へと進める力の方がブレに勝るように筋肉改造を行い、他者ではまね出来ない走り方を作り出した。その訓練の様子は、まさに拷問のような映像だった。

 しかし、昔の日本のようにとにかく根性だという精神論で進めるのではなく、最新のスポーツ力学を応用して導き出したトレーニング方法なので、当然、目標を達成することが出来さえすれば結果がついてくるという訳だ。
 そうはいっても、半端な気持ちでは絶対に続けられないハードトレーニング。それを支えたものの一つに、ジャマイカの子供達への支援という彼の人生での大きなテーマもあった。

 国民の平均年収が日本の平均の1/7程度しかないジャマイカでは、満足な教育を受けることが出来る子供達というのはごく限られている。子供達のせいではない。かと言って、親のせいにも出来ない。国自体がそういった環境であれば、どうすることも出来ない。
 そこで立ち上がったのがボルト選手であり、2015年の世界陸上大会までにすでに6億円以上を子供達のために寄付している。彼には、やりたい事が少しでも出来るようになった子供達の笑顔がかけがえのない宝物なのだ。

「生ける伝説になりたい」
 過去にそう語ったことのあるボルト選手。アスリートとしての彼ももちろん伝説として語り継がれるだろうが、彼の心にある子供達への愛情、そして深い同情心についても、きっと伝説となって語り継がれていくのだろう。


(文=生類憐みの令)