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連載小説『死に体』第3回

第3話 そして、今のオレの境遇は

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長めのプロローグ 3

 オレだけではない。

 両隣の住民、浅田のおっさんにしても、鬼ガワラのコンチクショウにしても、その更に隣の宮崎にしてもそうだ。宮崎は精神状態に異常をきたしているので、現状においてすら自分が終わっていることに気づいていないかもしれないが(ある意味、それはそれで悟りの境地だよな......)。

 なんにしてもだ。今のオレに比べれば、当時のオレの苦悩など取るに足らない。女子高生が失恋して、「......終わっちゃった」と感じてしまう乙女心と、そう大して変わりはしない。そう言い切っても今度こそ差し支えなかろう。

 だって今のオレ、明日、法的執行によりブチ殺されたとしてもなんら問題のない「死刑囚」なのだから。

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 10年で社会へと帰してもらえるんなら、笑って行ってやるよ。

 でも20年なら、もういいかな、とも思ってしまう。

 刑務所に20年行くくらいなら死んだほうがましだ──と言うわけではない。口でかんたんに言うほど、「死んだほうがましだ」なんていう状況が人生の中でそうそうあるわけがない。

 誰だって死ぬのは怖い。少なくとも、オレは怖い。

 だけど、刑務所に20年間も吸い込まれてしまっては、出る頃にはゆうに50の坂を登っている。なんの地位も才も財も持ち合わせていないこのオレが、そこからやり直せるほどのガッツがあるか。

 人間その気になれば、やれないことはない──というのはまったくのデタラメで、まず無理だ。刑務所の中で苦しい思いにひたすら耐え、20年間耐え続けて、なにが待っている!?

 死んでしまったのと同じではないか。


 そして、オレは本当に終わってしまった。

 まだ、こうして生きているけれど、それは人生の付録を過ごしているようなものでしかない。

 だからといって、死にたいか、というとまったく死にたくはない。むしろ一日でも永く生きていたい。人生の付録でもかまいやしない。生き延びていたい。たとえもう二度と、生きて社会の土を踏むことが叶わなくても、生きていたかった。

 生きることが苦しくて、いっそのことスパッとやっちゃって!と思うことはしばしばだけど、「そんなら、その期待に応えたろか」と迫られれば非常に困る。

 いつ死神にからめとられてもおかしくない、日常のいたるところに「死」と「絶望」がぶらさがっている地獄のような毎日でも、生きていたいと切実に思う。生きていたいと心から願う。

 はっきり言って、ここはこの世の地獄だ。無間地獄だ。金曜日の朝を迎えるたびに担当の足音に顔を引きつらせ、気が狂うのではないかとそのつど思う。

 いや、もしかしたら、もうすでに半分狂っているのではないか。

 オノレ自身が正常か異常かさえも判断できない暮し。神経はすり減り、明日への希望なんてどこを探してもまったく見当たらない。

 それでも、だ。それでも生きていきたいと思うのだ。

 もういいよ、なんて言葉、とてもじゃないが言えなかった。




沖田臥竜
兵庫県尼崎市出身。日本最大の暴力団組織二次団体の元最高幹部。前科8犯。21歳から29歳までの8年間服役。その出所後わずか半年で逮捕され、30歳から34歳までまた4年間服役と、通算12年間を獄中で過ごす(うち9年間は独居)。






写真はすべてイメージです。