>  >  > 覚醒剤に溺れたことも、子供と離れて暮らしていることも、どれも「なかったこと」にはできない。
その女が注射器を捨てるまで 第113話

覚醒剤に溺れたことも、子供と離れて暮らしていることも、どれも「なかったこと」にはできない。

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〜第五章まで〜
 シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。精神病院から刑務所での懲役生活を終えてシャバに戻った玲子を待っていたのは、どこに行くにもつきまとう両親からの監視の目だった。しかし旧友やママ友から励まされ、過去の過ちを告白した自分を受け入れてもらえた時、母との確執、そして将来の生活を考えて下した決断は「独り立ち」すること。最愛の子どもを残していくことだけが心残りだったが、人生を再生するため、玲子は再び東京へ向かう決心をしたのだった。


<最終章13 やるしかない>

覚醒剤の後遺症に妨害される

 ──母に喜んでもらいたい。

 資格取得にもうひとつ、大きな目的が加わって、やる気はさらに高まった。


 二度目の受験に集中して三カ月が経った頃、あたしは夜中に手足の痺れで目を覚ますことが増えた。

 覚醒剤の後遺症だった。

 それまでも微かにではあるけれど、手に震えが出ることがあったのだけれど、この頃に出てくる症状はかなり酷いものだった。

 違和感を覚えて目を覚ますと、腕や脚がジンジンと痺れていた。まるで長時間正座をしたあとのように痺れ、ときには感覚がまるっきりなくなることもあった。布団の上に座り込んでさすってみたり、立ち上がれるときは手足を振ったりして、暗い部屋で痺れに耐えた。

 ──大切な時期なのに!

 症状が出はじめて数日は、苛立ったりもした。
 痺れが治まっても、目が冴えてしまってすぐには寝つけず、貴重な時間を浪費しているような気がして、焦ったりもした。

 でも、あたしはすぐに悟った。

 眠れないなら、眠らなければいい。

 目が覚めたら、痺れる手で参考書を開き、手足をさすりながら参考書を読んだ。痺れが治まっても、指先に震えが残っていて文字を書くのが難しいことが多かったので、そんなときは眠くなるまでひたすら参考書に目を走らせた。

 痺れが治まり、眠気が再び訪れたら、布団に入って休む。目が覚めたら、夜中に読んだ部分の問題を解いてみる。手足をさすりながら寝ぼけ眼で読んだにもかかわらず、けっこう頭に入っていたりすると、かえってうれしくなり、やる気もアップした。

 なにがどう良かったのか、普通に勉強したときよりも強く記憶に残っていることもあった。

 物覚えが悪くなっても、手足の痺れに睡眠を妨げられても、着実に勉強は進んでいる。そんな気がしてうれしくなった。

 勉強に疲れると、子供に電話をした。
 疲れるのを見計らったかのように、絶妙なタイミングで子供から電話がかかってくることもあった。

 貯金は確実に減っていたけれど、すべてがいい方向に転がっていた。

 ──次で合格すれば、リセットできるんだ。

 覚醒剤に溺れていたことも、書き置きだけで東京に出たことも、子供と離れて暮らしていることも......、どれも今さら「なかったこと」にはできない。

 けれど、資格を取れば真剣に生きていることを証明できて、コーディネーターとして働きはじめれば経済的・実務的な問題もクリアでき、すべては落ち着くべきところに落ち着いて、問題は解決する。

 そう信じることができた。


(つづく)



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私には、もう前に進むしか道はなかった



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/