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その女が注射器を捨てるまで 第111話

貯金も底をつきかけ私には余裕がない...残された時間はギリギリだった。

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〜第五章まで〜
 シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。精神病院から刑務所での懲役生活を終えてシャバに戻った玲子を待っていたのは、どこに行くにもつきまとう両親からの監視の目だった。しかし旧友やママ友から励まされ、過去の過ちを告白した自分を受け入れてもらえた時、母との確執、そして将来の生活を考えて下した決断は「独り立ち」すること。最愛の子どもを残していくことだけが心残りだったが、人生を再生するため、玲子は再び東京へ向かう決心をしたのだった。


<最終章11 私には時間がない>

底の見えはじめた貯金

 あと一問で合格。

 福祉住環境コーディネーターの資格試験は、年に二回。

 次の試験日までは四カ月もあった。

 でも、決して余裕があるわけじゃない。四カ月であと一問分の知識を身につければ、それで済むというわけではなかったから。

 福祉住環境コーディネーターの資格は、当時設立されたばかりのもので、それだけに数カ月単位で新しい概念や用語が増えていた。
 介護や福祉関連の法改正も頻繁に行われていて、その際にそれまでの用語に呼称変更が加えられることもあった。

 だから、前回の勉強をなぞるだけではダメだった。むしろ、ただなぞってしまうと新しい試験では間違いにつながりかねない。これまでに蓄えた知識がすべて無駄になるわけではないけれど、法律や技術が進歩して付け加えられた部分や、変更された用語を確認するためにも、頭からひと通り勉強し直す必要があった。

 それだけじゃない。

 あたしにはもうひとつ問題があった。

 お金の問題。

 一番の懸案は、実家への仕送り。

 これだけは、止めるわけにはいかない。

 でも、仕送りと家賃のことを考えると、どれほど生活費を切りつめても貯金の額はギリギリ。

 二カ月の間に稼いだバイト代は、生活費でほとんど消えてしまい、貯金の足しにはならなかった。その少し前に失業保険も入ってきたけれど、規定どおり三カ月で支給は終わった。


 次の試験まではあと四カ月、合否の発表までは半年もある。油断をすると、次の発表の前に蓄えは底を突いてしまいそう......。

 かと言って、収入の多い仕事をするわけにもいかない。
 あれほど勉強に集中しても合格できなかったのだから、次の試験はもっと受験勉強に集中しなくてはいけないと思っていた。

 情けないけれど、仕事をしながら合格する自信はなかった。

 預金通帳の数字とにらめっこをしながら、逆算すると、あたしに残された時間はギリギリだった。

 次の試験で合格して、資格を取ったらすぐにコーディネーターの仕事をはじめる。そうしなければ仕送りができなくなる。

 あたしには仕送りを中断するという選択肢はない。

 だとすると、半年後にはいずれにしても、仕事を再開しなくてはならない。生活費を賄うためのアルバイトではなく、生活費も仕送り分も賄える、まとまった収入のある仕事を。

 仮に......もし仮に、また落ちてしまっても、仕事は再開しなくてはならない。

 資格が取れないままコーディネーター以外の仕事を再開すれば、三度目の受験はさらに厳しいものになる。

 試験一本に集中しても合格できないのなら、仕事の合間に勉強するのでは、記憶力の極度に落ちたあたしの頭では、合格は夢のままで終わってしまうかも知れない......。


(つづく)



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試験のこと、お金のこと、いろいろ考えると勉強が手につかなかった



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/