>  >  > 別件逮捕なのに訊かれるのはシャブの事ばかり...そして尿検査の結果が出た
その女が注射器を捨てるまで 第63話

別件逮捕なのに訊かれるのはシャブの事ばかり...そして尿検査の結果が出た

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「あたしシャブ中でした」
元覚醒剤常習犯、阿佐見玲子。
厳格な家庭に育ち、息の詰まる毎日だった少女時代。
そして男と出会いようやく幸せの糸口を掴んだかにみえたとき、魔物が心の隙に忍び込んだ。
ひとときの痛みから逃れるために手を出してしまった覚せい剤。
そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。


<第三章⑳ そして再び>


再びの尿検査

 あたしは尿検査を受けることに同意した。

 すぐにその場で、採尿がはじまった。

 手順は四カ月前と同じ。女性警官が瓶を洗って、あたしが紙コップにおしっこをして、洗った瓶に移し替え、その一部始終を警官が撮影して......。あたしが元気だったので、前とは違ってすぐに終わった。

 終わったところで帰れるものと思っていたら、

「ちょっと泊まっていってもらうから」

と、刑事。

「泊まるって留置場に? なにもしてないのに、そんなこと許されないでしょ!?」

 抗議をしたけれど、「悪質な駐車違反の取り調べもしなくてはならない」と、取り合ってはもらえなかった。

 別件逮捕だ。前夜に久間木から受けた以上の屈辱感に、その晩は寝不足にもかかわらず、一睡もできずに悶々と夜を明かした。

   

 翌日から取り調べがはじまった。

 内容は覚醒剤に関することばかり。

 不当に留置されたうえで、もう見たくもないシャブを「また使っただろ?」と問い詰められて、我慢も限度を超えた。

 前科持ちだからって、この扱いは酷すぎる!

「何度も同じこと言ってるでしょ? やってないもんはやってないんだよ!」

 取調室で声が嗄れるまで怒鳴ると、あとはただ怒りに打ち震えながら黙り込むしかなかった。

「一度シャブにハマっちまうと簡単には抜け出せないんだよ。パクられたって釈放されたらすぐにまた注射して、その繰り返しで何度だって刑務所送りになるんだ......。懲りないヤツばっかりだよ、シャブ中は」

 あたしがそうだと言わんばかりに、刑事は言った。
 黙り込むあたしの怒りを煽るように。

 そのたびに体の中で充満して行き場をなくした怒りのエネルギーが、首や腕をピクピクと小刻みに動かした。握った拳や首筋が、痙攣するようにブルブルといきなり震えだしたりもした。

 留置場に閉じこめられた状態で怒りまみれの黙秘を続けて、五日目の朝。
 あたしの寝起きする房に二人の警官を伴って、いつもの刑事がやってきた。

「尿検査の結果が出たから」

 助かった!

 やっと無実が証明されるんだ!

 ほっとして、それだけで自然と笑みがこぼれる。
 この喜びだけで、五日の間に受けた仕打ちを水に流してもいいとさえ思った。

「よかった、潔白でしょ!」

 刑事は表情を変えずに、淡々と返してきた。

「落ち着け、いいか? 尿検査の結果を言うぞ......」

 ありえない言葉だった。

「陽性反応が出た」

 えっ?

「よって覚醒剤取締法違反、使用の容疑で再逮捕する」

 ......なんで?


(第三章 完)



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ありえないよ.....



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/